2009-10-16 無題 小説 其の人はがくりと頭を垂れました。白い涙がはたはたと、灰色い袖に降り落ちるのを、わたしはぼうと眺めて居りました。 「私には如何しても。如何しても、殺せなかつたので御座います」 其の人は、其の力を以つてすれば容易く首のひとつも折れたであらふと 思はれるほど強く、両手を膝の上で握りしめて居りました。 「…可哀想と思ふが、此れも仕事ですので」 何故だか昼間に花屋で見た、だりあの赤々しかつたことが ふと蘇つたのでありました。