旅するトナカイ

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歳上の彼女

それでもぼくは、彼女に会いにその家に通ってしまうのだった。
古い木造で隙間風は吹くし、片付けができない彼女の部屋はいつも散らかって足の踏み場がない。
ぼくは彼女の部屋を訪れるたびに、まずは汚れた食器が山となっているキッチンを片付け、夕飯を作り、彼女が眠ってから洗濯と床の掃除をして、仕事に出る彼女を見送ってようやく自分の睡眠をゆっくりととる。(寝相の悪い彼女の隣ではおちおち寝ていられないからだ)
彼女はそれを当然と思っているのかどうなのか、「ありがとう」も「すまないね」もない。それなのに寝起きのキスだけで許してしまう自分も、どうかしていると思う。
そう、どうかしているのだ。彼女と初めて目が合った日の夜、夢で彼女と会ってしまった、そのときから。


「しいたけ、きらい」
恐ろしく不器用なはずの彼女が、これだけは器用に茶色い小粒だけを避ける。ぼくは何も言わないで、本日のデザートが着々と彼女の皿の隅に積み上がっていくのを見ていた。
舌の狂った彼女の皿は、七味まみれで狂ったように真っ赤だ。
「でも、ひろくんはすき」
聞きもしないし求めもしないのに、彼女は食事を食んでいるぼくの口にキスをする。甘党のぼくには、ちくりと辛いキスだ。
こういう、言葉にできないほどの膨大な幸せで窒息しそうになる瞬間、ぼくは同時にこの悦びが永遠に続かないことを悟って心の底から死にたくなる。