言わずと知れた名作ニュー・シネマ・パラダイスを初めて見てから10年が経って、また観てみた。
イタリアの片田舎の村で、唯一の娯楽である「映画」に魅了された少年・トトの半生を描く作品。
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ニュー・シネマ・パラダイス[完全オリジナル版] デジタル・レストア・バージョン Blu-ray
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
- 発売日: 2016/04/06
- メディア: Blu-ray
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早々に話は逸れるが、いま映画館でメトロポリタン・オペラのライブビューイングがあるのをご存知だろうか。
オペラにはあまり詳しくないのだけど、知人の誘いで「エフゲニー・オネーギン」というチャイコフスキーの演目を見て、あまりに感動し、ふとニュー・シネマ・パラダイスを思い出してまたまたhuluにお世話になって10年ぶりに再視聴した。
しかし。
huluに上がっているのは通常盤ニュー・シネマ・パラダイス。
私が10年前に見たのは「完全オリジナル版」。忘れもしない、当時TSUTAYA DISCASにあったのがそれだけだったのだ。
ニュー・シネマ・パラダイスはもともと175分、そう、実に3時間もある超大作なのだが、全世界での上映に際しては約50分をカットして124分の観やすい長さに短縮された。
2時間以上の映画は観客が座ってられないので正しい判断だったし、テーマを絞ったことによってこの映画は「映画を愛する全ての人に贈られる映画賛歌」としてアカデミー賞にも輝き歴史に名を残す。
その後、やっぱりってことで175分バージョンも世に現れた。それが「完全オリジナル版」。
「通常盤」と「完全オリジナル版」の違いを簡単にいうと、
「通常盤」は、映画に魅せられた少年・トトと、師匠である映画技師・アルフレードの師弟愛・友情・映画を愛する者同士の心のつながり、を描いた作品。
「完全オリジナル版」にはそれに加えて、はかない青春時代の初恋のノスタルジーをたっぷり1時間もかけてトッピング。
ピュアな友情物語に古典的なラブストーリーを乗っけたこのトッピングには賛否両論で、当時、私は御多分に洩れず「否」の側だった。
今は亡き(亡くなってはいない)mixiに当時レビューを書いたのを克明に覚えていて、ここに再掲してないかと遡ったけどなかった。そこには、そのトッピングたる「ラブストーリー要素」が完全なる蛇足、それがあることによって主人公トトの人間性や性格が疑われるし、ない方が良かった、と書いたはずである。おそらく「通常盤」からこの作品に入った人の批判の多くもこういうことだっただろうと思う。
そのレビューにはまた、「人生のいろんなステージで見るごとに印象が変わる映画だと思うから、数年後にまた観たい」と書いた。その「また」が、今である。
残念ながら当時と全く同じ「完全オリジナル版」で観ることはできなかったのだけど、でもそれによって、あんなに蛇足だと思っていた1時間こそが、今の私が観たかったものだ、という180度真逆の印象になっていたのだから、10年間の時を経て通常盤を観たのは間違いではなかったのだ。
確かに、完全版での追加要素は、映画のテーマをぶらしてしまう蛇足かもしれない。向こう見ずな一時の恋愛感情に身をまかせる行為は愚かしいし、いかにもなよくある映画っぽくて陳腐かもしれない。
でもあの完全版を観てしまった以上、初恋・エレナとの顛末を語らなければ、トトの人生について語ったことにならないのだ。
トトが故郷に帰らなかった30年間の間、そこに何を置いてきていたのか。トトの将来を応援するアルフレードがどれほど強い意志で、どれほどの犠牲を強いてきたのか。なぜ成功を収めたトトが、男としての幸せを手にしようとしないのか。母がなぜそんな彼に優しい母親の目線を送ることができるのか。
アルフレードの「形見」が、トトを未来へと背中を押してくれる応援者だとすれば、初恋のエレナはトトを過去へと連れ戻す亡霊だ。自分をどこまでもどこまでも遠くへ飛ばしてくれるものと、暗い地上へと引きずり下ろすもの。故郷を捨てて30年経ったトトが、それらとどう対峙するのか。二つの引力の間でもがく姿にこそ、醜い人の生き様が現れる。
そこまで深く考えなかったとしてもごくごく単純に、いろんなシーンの点と点が線でつながる瞬間の、謎が解けたみたいな気持ち良さは、やっぱり完全オリジナル版の方が圧倒的に気持ちがいい。アルフレードに師事するシーンの数々が伏線となって、エレナとの恋愛シーンに影響している。通常盤だと、その伏線が回収されない感じがしてウズウズしてしまう。
そして目に焼き付いているシーンの多くは、結局のところカットされたシーンの数々なのだ。
壁に映写したエレナに愛を囁くトト。
観客席での童貞喪失。
兵士の寓話の結末。
エレナの置き書きと、検品書の種明かし。
「愛のテーマ」が鳴り響く中で、車中のキス。
それが見たくて、私はまたこの映画を探したはずなのに。
そこにこそ、「エフゲニー・オネーギン」の追体験を期待したのに。
とても残念だけど、でもこの残念な気持ちになったことが、今回の収穫だった。
あと爆破シーンで変わらず泣いたけど、今回は館長の顔を見て、彼の人生に思いを馳せて泣いた。
次はまた数年後、
その時はどんな気持ちでこの映画を観るだろうか。
また楽しみの有効期限が更新された。