旅するトナカイ

旅行記エッセイ漫画

【映画】TOVEー「自由」は人を幸せにするか

滑り込みで劇場で観てきました、映画「TOVE」。

あの世界的人気の童話、ムーミンの作者トーベ・ヤンソンの半生を描いた作品です。

 

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(映画の予告編はこちら。「常識にとらわれずに」って、ん…? あれ…? そゆこと…?)


www.youtube.com

 

(公式サイトはこちら)

klockworx-v.com

 

 

トーベ・ヤンソンは、1914年〜2001年まで、世界大戦の動乱と戦後の復興を生きたスウェーデン語系フィンランド人。

芸術一家に生まれ自身も芸術の道を歩みながら絵画、イラスト、小説、脚本など幅広い分野で創作を行なっていた女性です。

 

当時は同性愛が犯罪であった世の中で女性同士の隠れた恋をしており、そのマイノリティ意識や自由への渇望が「ムーミン」の作中にも色濃く反映されている…というのはムーミンファンにとっては有名な話。

(トーベと恋人を元にした二人組のキャラクターがムーミンの作中に登場します。)

 

世の価値観が変わった今でも「多様性やLGBTQを描いた先駆的な作品!」「スナフキンのセリフ、深イイ☆」「〇〇のエピソードから学ぶべき…」などなど持て囃されまくりなムーミンです、が。

「作者はどんな人なんだろうー?(きゃぴ)」「ムーミンってどうやって生まれたのー?(きゅるん)」という軽いスキップで観にきたムーミンファンを「倫理」の鈍器で殴りにくる映画でした。

 

癒し系ムーミンワールドに浸りたい人は閲覧注意です。いやホントに。

 

 

 

なんか…思ってた「自由」とちがう…

端的に言うと貞操観念よ…」

トーベは男性の既婚者(不倫OK系夫婦)とも愛人関係を持つし、並行して女性の既婚者(かつトーベのパトロン)とも愛人関係を持つし、もうダブル不倫とかでは済まないこんがらがりまくり恋愛関係。

トーベに限らず登場人物たちは既婚者でもバリバリ愛人作るし、あちこちで身体の関係持ち放題だし、それも配偶者公認だったりするからもう理解が追いつかない。

 

しかしそんなハイパー自由恋愛を謳歌して「人生の冒険」を楽しんでいる彼らは酒池肉林の快楽に浸ってハッピーかと言えばそうではなく、むしろめっちゃ嫉妬したり傷ついたりして内心ズタボロ…。

 

不倫がネットで袋叩きに遭う今から見るとまったく想像の外の世界が上映開始15分でスタートするのですが、「関係者間でOKだったら不倫もアリ」って考え方も本人が良ければまぁアリかぁー…って思ったらやっぱり傷つくんかーい。

 

 

そこで突きつけられる問い…「自由を謳歌する」って、何かね…。

 

トーベの愛人が、トーベに「結婚した方が便利よ」と結婚を勧めてくるシーンひとつとっても、婚姻という契約・束縛があるほうがむしろ周りがうるさくなくて自由になれる。(私自身も結婚したことの利点は「周りはもう結婚する年齢なのに」という焦りから解放されたことがめちゃくちゃ大きい…。)

経済的にも、週に6日・7年間のムーミン漫画の新聞連載という仕事の束縛があってこそ、自立して自由に旅行に行ける。仕事に縛られない自由なはずの駆け出しの頃は、恋人に会いにパリに行く旅費も賄えない。

 

自由になるためには束縛を必要とするし、その一方で、自由を追求しても幸せになれるとは限らない。

自由を謳歌しようが厳格に規律を守ろうが、結局のところ自分の感情はコントロールしきれないし人は傷ついていく。

 

じゃあもう、人は何のために自由を求めるんですかね…。

 

 

もちろんトーベたちが「自由な恋愛を謳歌」したように見えても当時は同性愛が犯罪だったので彼女とは秘密の愛人関係にならざるを得なかった社会的背景や、男性の方の不倫相手は社会主義活動家だったことなども世の皮肉というか、白黒つけられないことがいかに人間に多いかを物語ります。

 

それともう一つ、愛人がパトロンとしてトーベに仕事を回してくれたという経緯を見ても、芸術家が身を立てることの難しさ(上流階級の恋人がいなくてもトーベはチャンスを得られただろうか…)についても考えてしまう。

 

自由って、自立って、なんなんですかね…(ため息)。

 

現在の日本に暮らしていると「自由主義」というイデオロギー(社会のOS)が当たり前の前提になっていますが、その歪みやそれによるネガティブサイドも明らかになっている今、「自由」を考える格好の題材です。

繰り返しますが、「自由を追い求めたトーベ、さすが☆」みたいなノリでは語れない、「こ、これが…世代を超えて子どもたちに愛される童話の…作者…?」っていう現実の生臭さに目が醒めます。

同時に、清廉潔白な人だけが子どもの心に寄り添えるとは限らないというのは希望でもある。

 

自由主義についての考察は映画「ミッドサマー」もとても良い題材なので、グロが大丈夫な方はぜひ。)

www.fusakonoblog.com

 

 

どうしようがやっぱり人は傷つくし、そして再起できる

自由についての答えは全然出ませんが、世の課題を解決した先になんの痛みも悩みもないユートピアがあるなんてことは決してなく、人が他者を愛する限り、必ず人は傷ついていく。

社会的成功を収めて人気者になったその同じ時に、斧で薪をめちゃくちゃに割りたくなるほど嫉妬に狂うこともある。

 

けれども時間は勝手に流れていき、人はそれぞれの道を生きて、新しい旅立ちの日を迎えることもできる。

 

もう踊り狂わにゃやってられんってことは幾度となく人生に訪れるので、そんな時は音楽をかけて頭を振り乱すしかないのです。

 

 

Wikipediaを見るだけでも、映画に描かれたトーベの人生や人間関係はごくごく一部であることがわかるので鑑賞済みの方は併せてどうぞ。)

ja.wikipedia.org

 

 

 

 

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トーベの故郷・フィンランド旅行記マンガ「白夜旅行記フィンランドノルウェーひとり旅〜」はこちらで読めます

 

はてなブログに寄稿させていただきました。

 

アルパカさんとのスペイン旅行記「トナパカ☆スペイン」

 

フィンランド番外編「極夜旅行 こぼれ話」はこちら

 

タイ旅行編「春のタイ 水かけ祭り ひとり旅」はこちら

 

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