後厄・八方塞がりパリ・ベルリン・コペンハーゲン女ひとり旅
(前回はこちら)
10日目 金曜日 ベルリン
10:00 起床
とても疲れているので、今日はあまり何もしない日にする。
天気がコロコロ変わって寒いのと、物価が高くて食事が満足にできないのとで体力を削られるらしい。
朝食
- ヨーグルト
- バナナ
- オレンジジュース
- コーヒー
11:00 ゴミ捨て
それぞれの国にそれぞれのゴミ捨て方法がある。
初日にホストのご両親が分別を教えてくれたけど「僕たちもベルリンに住んでるわけじゃないから、ちゃんとは分からないんだよねぇ」という感じだった。
マンションの外にコンテナがあり、鍵で開ける。
そしてビン類はというと、なんと街にあるコンテナに捨てに行くものらしい。びっくり。
「Glass Garbage」でGoogleマップ検索すると徒歩15分ほどのところにあったので、行ってみる。
続いて、本屋探し。せっかくドイツにいるので、ヘルマン・ヘッセの原書を手に入れたい。
駅前にいくつか本屋があるみたいなので巡ってみる。
歩いていると、初日に通ったWittenbergplatz駅の前に立派な市場が!
店の種類も品揃えも、昨日のKollwitzplatzより良い…! 昨日わざわざ遠くまで行ったのに…!!
11:25 デパートKaDeWeへ
創業100年以上の高級デパート。老舗だけどリニューアルされたらしくとってもモダンで楽しい。
『地球の歩き方』で食品・調理用品の売り場がお勧めされていたので行ってみる。
本屋に行ってみたけど、新刊・話題書だけ。ヘッセのへの字もないので次へ。
12:30 別の本屋へ
駅前のショッピングモール「Europacenter」に本屋「Hugendubel.de」があるので行ってみる。
こちらは2フロアあって商品も充実。
古い作家ではゲーテやカフカが多い。特にカフカはワンコーナー設けられている。ヘッセの本はなかったけど、ドイツの詩のオムニバス本に収録されていたので購入。
€10(¥1,649)
12:40 駅前のカリーブルスト屋さんへ
ベルリン名物、カリーブルスト。ソーセージを焼いてカレー粉を振りかけたもので、駅前にはほとんど必ず立ち食いできるスタンドがある。
他のお客さんはカリーブルストだけで食べている人もいた。いつの間にポテトを付けないと落ち着かないようにマクドナルドに調教されてしまっていたんだ…。
7.50(¥1,237)
現金払いのみでお金を出すのにまごついてしまい、お昼時で混んできたところで最悪な空気に…。
パリは「待つ」ことが自然なおおらかさが(それはそれでびっくりするくらい)あったけど、ベルリンでは「慣れてない余所者」への冷ややかさを感じる…日本のコンビニに初めてきたみたいな気持ち…。
カリーブルスト、カレー味が付いているのに更にケチャップ・マヨネーズが付いているので味が濃い。パンの方が軽食っぽく食べれたかも。味が濃いのでビールにぴったり。ビールありきの食文化かもしれない。
家で作る食事は味が塩胡椒ばかりだったので、久々のマヨネーズのまろやかさに泣きそうになる。それなりに色々食べているつもりだけど、レストランでしっかり食事をとることがないから体がリッチな脂味に飢えているのかも…。
カリーブルストはたこ焼きみたいなノリだと思った。たこ焼きは6個入り350円、高くても600円の世界線で生きているのでこれで千円超は高い。
マヨネーズで「お腹いっぱいご飯が食べたい」スイッチが入ってしまった。今まで、物価が高いからって粗食をしすぎた。それによって知らず知らずのうちに精神が削られていた。これからは少しくらい胃袋に従って、食べたいものをしっかり食べよう。
13:00 パン屋へ
パン屋「SCHNELL」で2日分のパンを購入。
€4.87(¥803)
帰って昼食。
昨日、市場で買った鯛を贅沢に1枚使って、ムニエルに。
- タイのムニエル
- クロワッサン
- レタス
- コーヒー
- ビール
一口飲むとサラダみたい。
ほぼホップ。ホップの炭酸ジュースって感じ。野菜の味。
これがドイツビールかぁ…と思ったら、
ノンアルコールやないかーーーい
…はい。
16:00 映画鑑賞
疲れているのでゆっくり。
アマプラでドイツ映画鑑賞。
『Der Pfau』(英題:The Peacock 孔雀)
Isabel Bogdanのミステリー小説の映画化。
舞台は田舎のお屋敷という、THE・ミステリー小説の舞台。チームワーク研修で訪れた会社員チーム、屋敷の主人夫婦、料理人たちが順番に主人公になって物語が展開する。屋敷で飼っている孔雀の死をきっかけに、それぞれが後ろめたい秘密を隠そうと右往左往する。…という話だと思うけど、会話劇であまり内容は分からなかった。
18:50 ふたたび本屋へ
買った詩集をパラパラしていると、辞書が欲しいと思い立つ。
外国にはめちゃめちゃミニサイズの英語辞典が売っているので、ふたたび本屋「Hugendubel」に行って英独・独英のポケット辞書を購入。
€11.95(¥1,971)
19:00 ベルリン・フィルハーモニーへ
今日は金曜日。旅に出てから1週間以上経ち、ライブや音楽に飢えてきた。どんなジャンルでも良いからコンサートに行きたい。現地の人がするような「週末をエンジョイ」する感じを味わいたい。こんなに天気悪くて寒いベルリンで暮らしていくには、みんな週末にはっちゃけているはずだ…!
Googleマップで調べると、大きなホールしかヒットしない。バーみたいな小さいお店もちらほら出てくるけど、今日はイベントがないところばかり。
コンサートをしている会場の中で一番宿から近い&今夜開催しているのがベルリン・フィルハーモニーだった。
『地球の歩き方』によるとベルリンフィルのホールは音響の良さに定評があり、東京サントリーホールが参考にしたほどだとか。こういう評判は我が身で体験しないと分からないものなので、せっかくベルリンにいるのだし世界屈指の音響を体験してみたい。もちろん楽団も有名だし。
自転車で一本道なのでNextbikeを借りて向かう。Nextbikeは1日券とかではなく、乗った分だけ請求される。
ちょうど晴れてきて気持ちが良い。
19:30 ベルリン・フィルハーモニー到着
19時台でこの明るさ。華の金曜日、今からコンサートで週末をスタートするぞ〜という雰囲気を沸かせてくれる。
韓国系指揮者Eun Sun Kimのベルリンフィル初公演。ソプラノはAustrine Stundyte。
若手のデビュー日だし、客席はほどほど。
クロークに荷物を預けてから先に自分の席の位置を確認しに行こうとしたら、まだ早いので客席には入れず。ロビーでコーヒーを飲んで、ノートを書きながら時間潰し。
コーヒー €3(¥495)
チケット代 €25(¥4,123)
館内は写真NGらしいけど、複雑でオシャレな作りだった。
10分前になったので席へ。
客席が複雑! ステージを360度客席が囲んでいて、段々になっていて迷路みたい。
一番安い席を取ったら、列の行き止まりの席だった。
オシャレすぎて席の表示が分かりづらく、なかなか見つけられない。係員さんに聞いてなんとか席へ。
20:00 開演
前半はソプラノ歌手も出てきて、アルノルト・シェーンベルクのオペラ『期待』。(生誕150年記念らしい。)
全く前知識はなかったけど、歌詞をドイツ語・英語ともにスクリーンに映してくれるので内容も分かる。
1幕だけ、約30分のコンパクトなオペラ。
めちゃくちゃ緩急が多くて、聴いていて楽しい。
ソプラノの主人公の一人語りなんだけどストーリーも展開していくし、それに合わせて音楽も陰気になったり盛り上がったりして飽きる瞬間がない。名演。
歌詞はざっくりとこんな感じ
暗いわ…森の中が暗くて心細いわ…
ヒッ、あれは何…!? あ、なんだ、木の根っこだったわ…
怖いわ…あの人がいてくれたらいいのに…
あの人に会いたいわ…
もう何日も会ってないもの…寂しいわ…
あっ、あんなところに建物が…行ってみましょう
おっと、何かに躓いたわ…何かしら…
なんと…!
血まみれのあの人…! 嘘…! 嘘よ…!!
どうしてこんなことに…!
死なないで、愛しているのよ…!!
誰か…! 誰か助けて…!!
ああ、もうだめだわ…
…最後にキスをしましょう…
…あれ…?
あなたはどこを見ているの…?
どうして遠くを見ているの…?
そういえば最後に会った時、忙しくて3日間会えないって言ってたけど…
なんだか気もそぞろだったような…
…ハッ…
もしや…
あの女を見ているのねーーーっ!!!
私に会えなかった時間も、あの女と過ごしていたのねーーーっ!!
私を放ったらかしてあの女とイチャついていたんでしょーーーっ!!
許せない!!
許せないわーーーっ!!!
私はあなた中心の生活で、世間から隔たれて生きてきたのに…!!
ひどい…ひどいわ…!!
…あぁ、朝が来る…
あなたのいない世界は、光がないのも同じ…私はあなた無しでどうやって生きていけばいいの…
…ああ、あなたはそこにいるのね…
私、探してたの…
…。
はい。
感情のジェットコースターですね。
演出などは一切なく明るいステージ上で演奏しているだけなのに、あまりに名演でこの歌の世界に引き込まれる。主人公の不安、悲しみ、怒り、激しい愛、狂っていく様に引っ張られていく。初見がゆえストーリー展開も「えぇぇーーっ」「うぉぉーーーい」って感じでピュアに楽しめる。
さすが世界のベルリンフィル、ゆらゆらと不思議な音楽なのにピッシリ揃って完璧な演奏。
そして評判の「音響」は一番安い席でもしっかり実感。
静かなところはまるで目の前で弾いているかのように全ての楽器がクリアに聞こえるし、大音量で盛り上がるところは迫力があるのに「うるさい」とは全く感じない。ちょうど耳に心地よく違和感のないレンジの中で全てのパートが明瞭に聞こえる感じ。
めちゃくちゃ感動。指揮の人の力量も素晴らしいのだろう。
拍手喝采の中、途中休憩へ。
休憩が何分間あるか分からないのでとりあえずトイレだけ行っておく。
広いホールにあるまじきトイレの少なさなので行列する。(日本の施設のトイレの多さはすごいよね…日本人ってトイレ近いのかな…。)
休憩スペースには、我らが日本を代表するベルリンフィル指揮者・小澤征爾の展示コーナーが。
本屋さんでも日本に関する本のコーナーがあったし、ドイツでは日本ブームなのかもしれない。円安で旅行者も増えてるだろうしね。
3楽章あって、40分くらい。(全体で約30分×2本というほどよいボリューム感も初心者には嬉しい。)
歌のない交響曲は素人には楽しむのが難しいので、眠くならないようにWikipediaで見どころ・聞きどころをリサーチ。
結果、書いてあることはよく分からなかったけど、こちらも緩急の差がはっきりしていて楽しめる。
ちょうど席がパーカッションの後ろだったんだけど、静かなパートになるとティンパニーの人が楽器に耳を近づけて、軽くトントン叩いてチューニングをする。あまりに音響が良すぎて「この音すら聞こえちゃうんじゃないの…!?」と心配になるけど、聞こえないんですよね。めちゃくちゃ良いホールだよ。
クラシック音楽ってどうしても静か〜でゆった〜りして眠くなるパートがあるんだけど、眠くなるのはきっと100年前の観客たちも同じで、作曲者はなんとかして「寝かすものか」と工夫を凝らしていると思う。「自分的にはこのメロディーめちゃくちゃ好きだし推したいんだけど、でもどうしても観客は寝るんだよなぁ…! いいよ、寝ないギリギリの長さにしとくよ…! ほんで目覚ましにデカい一発入れとくよ」みたいな構成が多くて、当時の作曲家の気持ちも想像すると楽しい。
そしてこの「デカい一発」が全てのパートの全ての音が完璧なので、途中で多少飽きちゃったとしてもラストで全部まくってくる。
エンディングの畳み掛けがあまりにカッコ良すぎて、客席もブチ上がり。
割れんばかりの拍手喝采、観客みんな大っっっっ満足の公演だった。
これはもう指揮の方にとっては大成功のベルリンフィル・デビューだったでしょう。
週末まで同じ公演があるので、もし時間があればリピしよう。今日で曲は大体分かったので、2回目はもっと楽しめそう。
21:30 退出
帰りはあいにくの雨。まあまあ降っている。
バスに乗ろうかとも思ったけど、バス停まで少し歩くのであまり変わらないかな…と思い、自転車で帰宅。
公園を通ってなんとか木の下で雨粒を凌ぐが、あんまり関係なく濡れる。
帰ってから見たらズボンの裾が泥だらけだった。
Nextbike 2日分の請求 €13(¥2,144)
22:00 帰宅
洗濯、就寝。
後厄度 ☆☆☆☆☆
歩いた歩数 14,071歩(ゆっくりする日だって言ってるのになんでこんな歩いてるの?)
(11日目に続く)
シェーンベルク『期待』が気になった方は、日本語訳付きでどうぞ。
小澤征爾の旅行エッセイ。小澤征爾が若手時代、西洋音楽を理解するためにスクーター1つでヨーロッパを旅行する…という話。初っ端から小澤征爾が天才すぎて同じ人間とは思えない。