終わらない。フィンランドブームが終わらない。
阪急梅田店の催事場では毎年決まって北欧フェアが開かれるようになった。
フィンランドのデザインに関する展覧会も毎年のように開催される。
正直に言おう。
フィンランド展、飽きた。
はじめこそはワクワク楽しんで見に行ったが、いくらオシャレで可愛いと言ってもフィンランドは小さい国だ。次から次へと新しいものが出てくるわけではない。
そして良いものを長く使い続けるエコな文化の中で、定番で暮らしに馴染むデザインを、中古で人から人へと渡しながら使い続けるのがフィンランド流だ。
そんなフィンランドのデザイン展は、どうしたって定番品の繰り返しになってしまう。
どこへ行っても、木枠で作ったイッタラ・ベース(花瓶)。
アアルトの椅子。
アラビアの食器。
マリメッコのウニッコ柄。
なんならマリメッコやイッタラの店舗も増えている中で、いっそ店頭に行けばいいのでは…という気もしてきてしまう。
フィンランドファンにとって「フィンランド展」と名のつくものは、新しい発見を求めて出かける場所というより、年に1回、国内で気軽にフィンランドの上質なデザイン品を眺めることができる機会…と思った方が良いのかもしれない。
(このように「興行的な成功=今まで見たことのないもの」を追求すれば、結果として生産・廃棄のサイクルを早めるしかなくなってしまう。これまでに見たもの、馴染みのあるもの、身近なものに千円以上のお金を払って鑑賞するという価値観を身につけなければ「サスティナビリティ」は遠い夢なのだ…自戒を込めて…。)(でもせっかくお金を払うなら新しいもの見たい。ワクワクしたい。)
さてそんな中、また一つフィンランドのデザイン展示が神戸で行われた。
神戸ファッション美術館 特別展「フィンランドのライフスタイル-暮らしを豊かにするデザイン-」
もう会期終了したので、宣伝の意味がなくて申し訳ない。
今回も定番のアアルト夫妻やカイ・フランク作品が中心になりそうなので、またいつものやつかな〜と見送ろうかと思っていた。が、少し寒さが増してきてフィンランド気分が高まってきたので、最終日に滑り込むことにしたのだ。
良かった。
めちゃめちゃ良かった。
目次
こんなフィンランド展、見たことない!
もちろん定番の作品をしっかり抑えているので、「フィンランド展」系が初めての方は「へーっ、これってフィンランドの人が考えた家具なんだ!」という発見はある。
しかし驚いたのは、その展示されている「物」そのものだった。
使っていた人の形跡が残る「中古品」の山!
まず出迎えてくれるのは、フィンランド・デザインの巨匠アルヴァ・アアルトの作品群。
中でも「スツール 60」の、その数は圧巻。
丸い座面に、直角に捻じ曲げた木の脚を3本留めたシンプルなスツール。
アアルト作品を知らなくとも、IKEAやニトリ、無印良品などの椅子として似たようなものは誰もが目にしたことがあるだろう。そのデザインの元祖とでもいうべき、どんな空間にも馴染むシンプルさを持ちながら、重ね合わせてスタッキングも可能という「機能美」の代表例だ。
どのフィンランド展でも展示される定番品だが、大抵の場合には「新品」が展示されている。美しい完璧な状態を展示するのが普通だと思う。
しかし今回の展示はそうではない。
座面がハゲていたり、傷だらけだったり、座面の布にシミがあったり、なんなら持ち主が自分好みの色にペイントしちゃったものまで。
この「スツール 60」が人々と共に暮らしてきたことが想像できる中古品がその名の通り「積まれて」いるのだ。(あえて「ヴィンテージ」という敷居の高い表現ではなく、暮らしの中で人が使った使用感の残る「中古品」という表現をさせていただく。)
フィンランドのデザイン家具を、デザイン史のピカピカのページに挟まれる芸術品としてではなく、あくまで人の生活の中で息をするものだという見せ方に惚れ惚れしてしまった。何より、この数のスツールをどうやって集めたのか不思議でならない。
改めて気づく、定番品の美しさ
もちろん、いつもの「らしい」展示コーナーもある。
しかし新しい目で眺めると、見たことのある商品の新しい美に気づく。
今やすっかり定着して、雑貨屋さんで似たようなデザインも見かける、イッタラのカラーグラス。
1つ1つが美しいだけではなく、透けているグラス同士の色が溶け合い、そこに新しい色が生まれる。
正面からだけでなく、八方から眺めることで新たな美を発見する。
「実際にどう使われたか」を感じられる
スタッキング可能なデザインの椅子は、重ねて置かれている。
こちらは「ドムス・チェア」。戦後の物資不足の中で学生寮の家具をデザインすることになり、少ない資材でも座り心地の良いデザインを追求した。「物資がないから苦しいのを我慢」するのではなく、あくまで使う人の心地よさ、生活の豊かさを追求する精神はあっぱれ。
この一脚一脚が貴重なものだろうに、うやうやしく鎮座するのではなく、実際にどう使われたかが分かるよう重ねてくれている展示のサービス精神に感動する。重ねる際に傷がついてしまうかもしれないし、展示する人はさぞ気を遣ったことだろう。重ねることを許してくれた所有者の方も懐が広い。
後半はアート作品群
前半でフィンランドデザインの機能美を堪能したら、後半はより芸術性の高い作品の展示。アーティストそれぞれに焦点を充てて紹介するコーナー。
マリメッコの日本人デザイナー、石本藤雄氏の作品が出迎えてくれる。
ちなみに壁にかかっている「お皿」はビルゲル・カイピアイネンの作品。こちらもフィンランド展ではお馴染みの存在。
執念を感じるアニバーサリー作品コレクション
有名食器メーカーでは、毎年その1年間だけ製造される限定品を出しているところもある。イッタラやアラビアもそう。
毎年発売される「ガラスのキューブ」のアート作品や、鳥の形の置物などがずらりと勢揃い。
「これ、一回買ったら来年も買いたくなってキリがないのでは…」と怖気付いてしまったが、毎年買っている人がいたんですね。執念。
そして二度と生産されない限定品を全て展示してくれるって、太っ腹すぎるよ…。
説明書きを見ると、これらのコレクションのほとんどが「スコープ蔵」。
なんだか分からないけど、フィンランドのデザイン作品を大量にコレクションしている熱心なコレクターがいるのかなぁ…と思ったら、いました。有限会社スコープの平井千里馬氏。
「スコープ」とは、家具・雑貨の名古屋発オンラインショップ↓
なんとこのお方、フィンランドのデザイン家具や食器をコレクションするのみならず、生産されていないシリーズを自ら釜へ脚を運んで復刻してしまう、なんかものすごくとんでもない人らしい。
そして、私が本展を訪れた最終日にはご本人が入口にサインブースを設けていらっしゃった。入った時には「誰あれ?」とスルーしてしまったが、ハンパないお方だった。
そんな平井さん率いるスコープの協力によって、フィンランドの暮らしと芸術性にゆったりと浸かることができる展示が形になったのだ。
他展示では見たことのないマニアックな品も
そんな執念のコレクター・平井さん&スコープだからこそ知っている&持っているのであろう、他の展示では見たこともない作品にも出会うことができる。
平井さんがアーティストと共に復刻商品を作ってきた過程のレポもある。
単に「フィンランドのデザインって素敵だよね〜」と距離を置いて眺めるのではなく、自分が「良い」と思ったものを実際に手に取り、集め、もうないならば自ら現地に足を運び、自らの手で作る。そして欲しい人のところへ届ける。そんな活動をしている生身の人の体温を感じることができる、熱い展示だった。
フィンランドといえば「ていねいな暮らし」みたいな「静」のイメージが強いので、こういう「アツさ」に触れてこちらまで胸が熱くなってしまった。
日本とのコラボレーションも
フィンランドデザイナーと日本の伝統工芸作家がコラボした商品も、全国各地で生まれているらしい。
カウニステ
2008年にヘルシンキで生まれたテキスタイルブランド。日本人とフィンランド人がともに創立したらしい。
優しい色合いのものが多く、マリメッコだとちょっと色がビビッドできついんだよな…という方にはこちらがおすすめ。北欧雑貨屋さんでよく置かれている。
イワテモ
フィンランドのデザイナーと岩手の工房が組み、家具や食器を作っているそう。
先ほどの「ドムス・チェア」のデザイナー、イルマリ・タピオヴィーラのスツール「ピルッカ」シリーズを思わせる椅子も!
フィンランドのシンプルな形とシックな色合いは、不思議と日本家屋にも馴染みやすい。フィンランドの街を歩いていると、「これって日本製?」と思うようなものもあり、両者のデザイン性はとても相性が良い。
まさにそのことを形にしたブランドではないか。
写真も良い
展示が良いだけではない。
図録やポストカードなど、グッズも良い。
ここまで力の入った展覧会グッズ、初めて。
正直、フィンランド展というと雑貨屋さんに置いてある北欧グッズがそのままミュージアムショップに並ぶことが置い。思い出として買うのも良いかもしれないけど、他のお店でも手に入るようなものだとちょっとしょんぼりしてしまう。
しかし今回はグッズが大変良い。
ポストカードも、単に作品を映すだけでなく、展示会場で見たあの感動をいかに絵(画)として1枚に封じるか…この作品が美しく輝くのはどんなレイアウトか、そういうことまで練られたものばかり。
私は展覧会に行ったら、必ずお気に入り作品のポストカードを購入し、写真立てに入れて部屋に飾っている。しかし「家具・食器の写真を、写真立てに入れて飾る」って、ちょっと可笑しな話なのだ。(だったら実物の食器を飾れば良いし、実物の食器なら飾るよりも使いたいし…。)
しかし、今回のものは「一枚のポストカードとして美しいこと」を考えられたものばかり。これはぜひとも部屋に飾りたい、人に贈りたいと思い、テンション上がって大量買いしてしまった。
もちろん、それをしげしげと眺めることができる図録も大変満足な1冊。
まだまだ知らないフィンランドがいっぱい
正直、舐めてた。
私、全然でした。
私の知らないフィンランドデザイン、すばらしい作品群、そしてその見せ方。めっちゃあったわ。
パリ・コレクションで発表された最先端ファッションがその後の廉価ブランドに模倣されていくように、フィンランドの最先端デザインが、今ではあらゆる廉価商品に模倣され普及している。その発信源をまさに今見ているのだという有り難みをひしひしと感じた。
そんなに広くない展示会場なのに、たっぷり2時間も滞在してしまった。(行く前は30分くらいで見終わるだろうと思っていた。)
一体何がどうなって、神戸ファッション美術館でこのような展示が形になったのか、不思議でならない。
今後も「フィンランド展」を侮らないし、スコープさんの存在には目を光らせておきたい。
↓初期作品