旅するトナカイ

旅行記エッセイ漫画

【映画】未来の自分へ告ぐ、『ローズ・イン・タイドランド』は二度と見なくて良い。

前回に続いて酷評記事です、すみません。

 

テリー・ギリアム監督ローズ・イン・タイドランド

サブカル映画にハマっていた時期に観たなぁ〜と懐かしく思う一方、内容は1ミリたりともまっっったく思い出せない、ということで長年ぶりにDVDで視聴。なんせジャケはめちゃくちゃファンタジックでかわいいのだ。

 

 

 

結果。

 

 

 

 

苦行でした。

 

 

 

 

あまりにも苦痛な2時間。

何度、途中でリタイアしようと思ったことか。

 

 

テリー・ギリアム監督は『ブラザーズ・グリム』を、こちらは当時映画館で観賞したのだが、これもまた一切の内容を覚えていない。

同監督作品はこの2作品しか観たことがないが、どうやらこの監督の映画は全く内容を覚えていられないことに定評があるらしい。

 

それもそのはず。

 

上手いのは映像効果だけで、話に中身がないんだもの。

 

 

 

…でもね。でも、私には見える。

 

 

 

 

 

何十年後かに、またジャケに騙されて「わぁ〜昔観たなぁ、でも内容覚えてないや、もう一回見返そ」と手に取ってしまう自分の姿が見える。

 

 

 

私はそれを阻止しなければならない。

未来の自分がまた苦痛な2時間を味わうことを、なんとしても止めなければならない。

この世界がタイムリープアニメならば、何度阻止しても結局また観てしまうのかもしれない。あらゆる世界線の私が、『ローズ・イン・タイドランド』を数年おきに見返しては後悔している。

 

この世界線の私は、このブログに未来の自分へのメッセージを託すことで、再度『ローズ・イン・タイドランド』を観てしまうことを止めようと思う。

 

 

目次

 

 

あらすじ

主人公は、10歳の少女ジェライザ・ローズ。『不思議の国のアリス』が愛読書の、夢見がちで無邪気な女の子。

 

しかし彼女が暮らしている家庭環境は端的に言って“終わって”いる。

 

両親ともに麻薬中毒、父親は仕事もせず、母親は一日中ベッドでチョコバー(に偽装した麻薬?)を貪る。

もちろんジェライザ・ローズはまともな教育も受けず、あまつさえ、父親が覚醒剤を腕に注射してトリップするのを手伝わされるのが日々のルーティン。

両親が「旅に出ている」間は、首だけのバービー人形をイマジナリー・フレンドとして家の外を冒険する…そんな生活。

 

 

 

ある日、母親がオーバードーズで死んでしまう。

父親はジェライザ・ローズを連れて、故郷テキサスの実家へ。かつてそこにはおばあちゃん(父親の母)が住んでいたが、もうそこは、荒れ果てた空き家。

 

広大な草原に囲まれたこの場所で、現実はどんどん荒れていく中、ジェライザ・ローズはその想像力を羽ばたかせ、幻想的な世界を冒険する…。

 

 

「意味コワ」を映像化したらあかんて

この作品、もとは『不思議の国のアリス』を下敷きとしてグロテスクにアレンジした、ミッチ・カリン『タイドランド』という小説を映像化したものらしい。

小説の方は未読なので比較はできないが、おそらく、たぶん、絶対に映像化しちゃダメなやつ。

 

この作品の肝は、あまりにも荒廃した現実世界を、善悪の分別がつかない10歳の少女の無垢な目を通して見ることでキラキラファンタジーになってしまう…というそのギャップのグロテスクさにあるはず。

そう、主人公の少女視点では何が起こっているか分からないが、読者にはいかに狂った状況かが分かってしまうという、いわば「意味が分かると怖い話」なのだ。

当時は「意味コワ」なんて言葉はなかったが、それを2004年の時点でとっくにやっていたんだから、現代の創作にそのバトンを繋いだ良作と言って良いと思う。

 

しかしこれを映像化してしまうと、「意味」の部分がぜーーーんぶ描かれてしまう。

「ええ、これってこういう意味なんじゃないの…?」と想像力を働かせるまでもなく、狂った状況がそのまんま目の前に現れる。そして、それに対する少女のピュアな反応を観て「ああ、この子、まだ幼いから分かってないんだ…」と絶望する。つまり観客の想像力が全く逆方向に働かされていて、完全に逆効果である。

 

ただ、これは映画業界の表現があまりに発展しすぎた現代だから感じることで(「意味コワ」も『関心領域』の域まで高度化してしまったし)、当時の感覚ではそこまで違和感がなかったのでは…とも思ったが、ブログを見返したら2009年の私が全く同じこと言ってたわ。

 

 

コンプラが進んだ現代では直視不可

ただ、当時はこの映画が「苦痛」とまでは感じなかったはず。映像表現はやはり(あの当時としては)格別だったし、空想の水中を泳ぐシーンは今見ても「どうやって撮影したんだろう?」と不思議だ。

話に中身もメッセージもなく、ストーリーや構成は穴だらけだが、瞬間瞬間の「演出」「表現」の手腕は確か、それがギリアム監督なのだと思う。『ブラザーズ・グリム』も見返したけどやはりそうだった。

 

しかし16年前に観た『ローズ・イン・タイドランド』と2025年現在では何が違うのか。私の中のコンプラ意識である。

 

16年で世の中の「常識」のラインはずいぶん変わってしまった。テレビ番組でも、自分が慣れ親しんだはずの平成の映像は現代で見るとドン引きの嵐。

ローズ・イン・タイドランド』は、今の感覚ではドン引きしてしまう要素てんこ盛りなのである。

 

 

もう二度と観ないために全編をネタバレしていく

さて、ここからが本題。

「どんな内容だっけ、見返してみよう」と愚かにも思ってしまう自分のために、「これを読めば内容は分かるからもう観ないで!!」と歯止めを効かせる、それがこの記事の趣旨である。

 

残念ながら『ローズ・イン・タイドランド』はSNS黎明期よりも前の作品なので、ネットに情報があまり転がっていない。記憶を呼び戻そうにも材料がない。

 

この記事ですべてのあらすじを書いておくので、これを読んでなんとか内容を思い出し、もう映画の方は観ないでください。(未来の自分へ。)

 

 

 

以下、全てのネタバレ

1. オーバードーズ

10歳の少女、ジェライザ・ローズは、麻薬中毒の両親と3人暮らし。

父親は落ちぶれたロック・スターで、未だに若いロッカー気分が抜けない初老のオジサン。伸ばした長髪は脂でベトベト。デンマークユトランドに行くことを夢見て、しきりにジェライザ・ローズにユトランドの地図を見せびらかす。

母親は昔は美人だったのだろうと思わせるが、現在はベッドから一歩も動かずジェライザ・ローズに身の回りの世話をさせてこき使う。大量のチョコバーに囲まれていて、ジェライザ・ローズが「いいなぁ、私も食べたい」なんて手を伸ばそうものならピシャンと手をはたく。(覚醒剤入りだからなのか、単に強欲なだけなのか…?)

 

ジェライザ・ローズは愛読書の『不思議の国のアリス』を読みながら、いつか自分もこんな冒険を…なんて夢想するピュアな女の子。

父親が腕を縛って覚醒剤を注射するのを甲斐甲斐しく手伝ってあげるのが日課だ。もちろん、それがどういうものなのか、それが良いことなのか悪いことなのかなんて分かっていない。ただ、これを打つと父親は「旅に」行ってしまい、その間は一人で遊んでいるしかない、というだけ。淡々と、てきぱきと、手際よく注射を準備する様は大人びてすらいる。

いわばこの家庭のヤングケアラーで、ケアする対象やケアの内容があまりにも終わっているのだ。

 

さてある日、母親がベッドの上でオーバードーズで死んでしまう。

父親は大パニック。

しかしジャンキーな父親もまだ幼いジェライザ・ローズも、どちらも「母の死」というものを重く受け止めない。父親は「やべー、やっちまった!」くらいのテンションで、ジェライザ・ローズは「なになに?もうママは目覚めないの?」くらいのノリ。

父親にも「愛した女を見送る」という常識くらいはあるらしく、母親が好きだったもので彼女の周りを飾ってあげる。しかしゴリゴリにドラッグをやりまくっているのでまともな埋葬行事はできるはずもなく、家を焼き捨てて、ジェライザ・ローズを連れて田舎に逃亡することに。

 

 

2. オーバードーズ Part2

父方のおばあちゃんの家は、テキサスのど田舎「タイドランド」。

長距離バスに乗って親子でおばあちゃんの家を目指す。

バスの中でも、父親はジャンキーで大声で喋るわもちろん風呂も洗濯もしていないから臭いはするわ、娘も躾なんてされていないので大声で『不思議の国のアリス』を父に読み聞かせる…という最悪の乗客ぶりで周りから煙たがられる。こんな客と長距離バスで乗り合わせるなんて不運でしかない。乗客と父親は大喧嘩。しまいにはシートで嘔吐。

 

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なんやかやあっても、なんとか二人はおばあちゃんの家へ。

 

そこは四方八方を草原に囲まれた一軒家。

ジェライザ・ローズもかつておばあちゃんに会ったことがあり、可愛がってもらった記憶があるのでウキウキで家へ…入るが、そこは打ち捨てられた空き家。空き巣にやられたのか、荒らされた痕跡もある。

全てが埃だらけ虫だらけ、屋根にはリスが住み着いている。

 

一見がっかりしたジェライザ・ローズだが、どんな絶望的な状況もそのイマジネーションで乗り切ってきた彼女なので、すぐに気を持ち直して2階の自室を満喫する。

おばあちゃんが残した大きな美しい鏡台。

そこにしまわれていた大人の口紅。

クローゼットには派手なドレスやファーや帽子。

 

360度草原に囲まれたど田舎で、派手なメイク道具にドレス…。「おばあちゃん」がどんな仕事(?)をしていたのかが窺える。

しかし10歳の少女にはそんなことは関係なし、羽を首に巻いて口紅を引いてチークを塗って、大人のお姉さんごっこに没頭する。

 

…さて、父親の方はというと、田舎の家にたどり着いて最初にすることはやっぱりドラッグである。

所変わってもいつもの通り、ジェライザ・ローズが用意した注射器で腕に覚醒剤を打ち込む。「量を減らすなよ」と忠告もして。ラジカセからお気に入りの音楽を流して。

さあ、これからしばらくは父親は「旅に出て」しまう。

ジェライザ・ローズは、首だけバービー人形の友人たちを連れて、家の周りの周辺散策へ。

 

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…戻った時、父親はこれまたオーバードーズで死んでしまっていた。

しかしジェライザ・ローズは「死んじゃった」なんて言わない。彼女の空想の世界に「死」なんてものはない。「お父さん、長いこと旅から帰らないのねぇ」なんて言って、無邪気に話しかけるだけ。

 

 

3. 魔女

それにしてもお腹が減った。ジェライザ・ローズの手元にある食料は、家から出かける際に持ってきた、食パンとピーナッツバターの瓶だけ。

お弁当用のピーナッツバターサンドには蟻だらけに…。「蟻め!蟻め!」と踏み殺して、なんとか食事にありつくジェライザ・ローズ。

 

さて、父親も目覚めないので周辺の草原で冒険ごっこに没頭するのが彼女の日課に。

歩いていると、草原を横切る鉄道があることを発見する。線路はどこまでもまっすぐ伸びて、ときどき、長距離列車が猛スピードで走っていく。子どもにとっては電車の近くで轟音を聞くだけでも最高に面白い!

線路脇に打ち捨てられたバンの廃車に潜り込み、電車が通れば大音量と風圧にキャッキャとはしゃぐジェライザ・ローズ。廃車の中で舞う埃がキラキラと輝き、まるで蛍が飛んでいるようだ。

 

さらに歩くと、草原にも終わりがある。どうやら土地開発をしているらしい、トラクターが土を掘り起こしている。(それともなにか資源を掘り出しているのか…?)土地開発が進めば、誰の目にも届かない世界の果てのようなジェライザ・ローズの家も「世間」に見つかるかもしれない。いつか訪れるであろうこの「平和な」幻想世界の終わりを、草原の終わりが予感させる。

 

 

さて、彼女が一人遊びしていると…草原に黒ずくめの魔女が現れる。

真っ黒のハット、真っ黒のワンピース、目を覆うゴーグル、顔はヴェールで隠されている。怪しすぎる女性はまさに魔女の風貌。

 

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魔女は、初めて出会った少女を歓迎しない。「お前、こんなところで何してるんだ!」と敵意剥き出し。

話を聞くと、蜂に刺されないようにこんなおかしな格好をしているらしい。父が養蜂家で、片目を蜂に刺されてしまい、もう一度刺されるとアナフェラキシーショックで死んでしまうので警戒している…とのこと。10歳のジェライザ・ローズにはいまいちよく分からないが、とにかく魔女が方にする不気味な言葉の羅列には違いない。

魔女はジェライザ・ローズを心配するでもなく、興味を持つでもなく、ただ煙たがっているような雰囲気。大の大人の女性が、田舎で見慣れない少女を発見した時の反応とはとうてい思えない。

しかしジェライザ・ローズのピュア・フィルターを通せば、魔女は一緒にお話ししてくれた「親友」!

 

孤独な少女の暮らしに一筋の光が差す。

 

 

3. 船長

翌日、ジェライザ・ローズはおめかし(おばあちゃんの残した服とメイク)をして、魔女の家へ。

魔女の話し声が聞こえて、窓から中を覗いてみると…。

魔女は男性と一緒に暮らしている。そして、その男性になにやらガミガミとがなりたてている。

 

そう、その青年は魔女の弟。

知的障害があり6歳程度の知能で、魔女と一緒に暮らしているのだ。

 

この青年が、ジェライザ・ローズの遊び相手に。

精神年齢が近い2人は話も合う。…ただし、観客の目には大人のオジサンと10歳の少女なのだが。

 

青年は、彼の空想の中で「船長」だった。

草原の中に自分だけの秘密基地を作り、そこに草原や線路脇で拾った落とし物をコレクションしたりして遊んでいる。

彼はいつか「サメをやっつける」ことが夢なのだ。線路に餌(という名の、落とし物のコイン)を撒いておけばサメ(電車)は現れる。このサメをいつか仕留めてやる、という。

 

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無邪気な夢にキャッキャと喜ぶジェライザ、ローズ。

2人で草原の海を漂うシーンはこの映画きっての美しいシーンである。

 

2人は意気投合し、ジェライザ・ローズはなにかとこの「船長」について回るようになる。

 

 

4. 剥製小屋

魔女の家からの帰り道に、これまたファンタジックなぐねぐね曲がった大きな木がある。(映画のジャケットに描かれている木である。)(あまりに田舎すぎて土地が広大なのだが、魔女の家は「お隣さん」ということになる。徒歩で行き来するにはかなりの距離があるけど。)

 

木の根元に、ジェライザ・ローズは「ウサギの穴」を発見する。(大きさとしてはヘビの穴?)

勇気のある首だけ人形が興味を持って穴を探索!…すると、指からすっぽ抜けて人形は中に落ちてしまう。たいへん!

穴は狭くて中が見えない。

他のバービー人形の首たちと相談するが、他の3人の人形たちはいくじなしで誰も助けに行こうとしない。いつも一緒に冒険に出かける小心者の子はオドオドするばかり。皮肉屋の子は「自業自得」と言わんばかり。一番地味な、顔がぐしゃぐしゃに潰れた子だけがジェライザ・ローズの話を取り合ってくれる。この4番目の潰れた人形がジェライザ・ローズの関心を買い、冒険のお供に昇格する。

(もちろん4人とも、ジェライザ・ローズがキャラ付けをして想像で会話を作っている。ジェライザ・ローズ本人も含めて5人の会話を、まるで本当にバラバラの人間が喋っているかのように演技する子役の女の子の演技力は圧巻。)

 

さて、落ちた人形を救い出すため、ジェライザ・ローズは4番目の首だけ人形を連れて船長に助けを求めに行く。

ふたたび、魔女の家へ。

 

魔女の家に着くと、見慣れない車が。草原に身を隠して様子を伺うジェライザ・ローズ。

魔女は相変わらず船長をいじめて、ガミガミとがなりたてては家の用事を言いつけている。

魔女の家の前に停まったトラックから、また別の男性が現れる。荷台から、食料を載せたカゴを下ろして魔女へ手渡す。

魔女は男に「ありがとう助かるわ。このお代はもうあなたが払ってくれているのよね?」と意味深な目線。「いいけど、その代わり…」と要求する男を「こんなところではダメ」と離れの小屋へ連れて行く。

 

そう、このトラックは食料や日用品のデリバリー。

農業にも向かない乾ききった土地のタイドランドで、隣家が何キロも先にしかないような一軒家で暮らすには、日々の暮らしをデリバリーに頼るしかないのだ。

加えて魔女の姉弟は、ウサギなどの野生動物をハントして食用肉としているらしい。肉の処理を手伝うので弟も大変だ。

 

男を連れて小屋へと消えて行く魔女を、ジェライザ・ローズはこっそり追う。「男の人が、悪い魔女に連れ去られちゃう!」

小屋に入ると、そのにはあらゆる動物の剥製がずらりと並ぶ。どうやら魔女は剥製づくりが趣味らしい。ジェライザ・ローズの目には、動物たちが話しかけてくるようだ。

 

奥へ進むと、男の苦しそうな息遣いが聞こえる。

壁の向こうでは、床に横たわった男の上で魔女がしきりに動いている。魔女が男を殺そうとしているんだ!

思わず息を呑むジェライザ・ローズ。

その気配に気づいて魔女がばっとこちらを向く。

慌てて逃げ出すジェライザ・ローズ。

しかし壁の出っ張りに服の切れ端がひっかかり、魔女にその素性を知られてしまうのだった。

 

 

5. おばあちゃん

なんやかやあって、船長と落ち合うジェライザ・ローズ。

(なんやかや…というのも、この話、舞台が「ジェライザ・ローズの家」「魔女の家」「草原」の3つしかない中で、それぞれのキャラクターの行動原理や動機が特にないままばったり出会ったり別れたり日付が変わったりするので、出来事や展開の整合性はなく、起こったことの順序を覚えていられないのだ。かといって事実確認のためにまた見返すのも癪なので、粗が多いのは容赦していただきたい。)

 

「ウサギの穴」に落ちた人形を助けてほしいと船長に頼むジェライザ・ローズ。

でも船長は、姉から言いつけられたおつかいの途中。そんな道草を食っている場合ではない。船長からは拒否されてしまう。

けれど他に頼る先のないジェライザ・ローズはしつこく食い下がる。「あなたが好きだから」「お願い」「聞いてくれたら、キスしてあげる」と、色っぽい猫撫で声で甘え、大人のオンナの仕草でほだす。(どこでそんな技を覚えたのか…。)

 

ほだされた船長はしぶしぶ、ウサギの穴へ。

しかし少女の手も入らないような穴で、船長の手が入るはずもない。「中には何もないよ」と言われて、それで終わり。

 

船長と一緒に過ごす中で、船長は過去の話をいろいろ聞かせてくれる。ずっと魔女の家で暮らしてきた船長は、ジェライザ・ローズのおばあちゃんと「ご近所さん」なのだ。

 

てんかんの手術で頭を傷つけられ、知的障害が残ったこと。(彼の坊主頭には、大きく頭を開いた手術跡がまだ残っている。)

ジェライザ・ローズのおばあちゃんは、彼を特別可愛がってくれたこと。たくさんキスをしてくれたこと。

時にはこんなキスもしてくれた…と、舌をペロペロさせる船長。その仕草がおかしくて「キスばか!キスばか!」と笑うジェライザ・ローズ。

 

…そう、船長は、知的障害があることをいいことに、ジェライザ・ローズのおばあちゃんから性的虐待を受けていたのだ…。

 

本人はそのことを分かっていない。

ジェライザ・ローズにもその意味は分からない。

ただ愛情だと思っている。

 

おそらく姉の方も精神的にどこか不安なこの姉弟は、どちらも周囲から性を搾取される存在だったのだ…。

 

 

そんな身の上話を聞きながら、どんどん親密になる2人。

ジェライザ・ローズは、船長のことが好き、船長は私の恋人、私は船長と結婚して早く子どもを産みたいわ…なんて妄想が突っ走る。(こういう恋の妄想は10歳の少女にはよくあることだが、状況が状況なだけに背筋が凍る。)

2人は、唇をすぼめた子どものキスをして、ふざけて笑い合う。

 

 

6. お父さん

そうこうしている間にも、ジェライザ・ローズの暮らしは困窮していく。

唯一の食料であるピーナッツバターも底を尽きた。

父親の死体は、ジェライザ・ローズがカツラやらメイクやらで着飾っているが、蝿がしきりにたかっている。(ウジまでは湧いていなかったのが観客としてはありがたいところ…。)

常に腹ペコだが食料を得る術はなく、毎日草原で幻想の冒険をしては、疲れてベッドで眠るだけの生活。

映像ではツヤツヤつるつるのジェライザ・ローズだが、実際にはガリガリに痩せこけているはずである。

 

さて、そんなジェライザ・ローズの家に魔女の姉弟が現れる。

父親の死体を見つけて驚く魔女。

「剥製づくり開始!」と、魔女が父親の腹にナイフを突き立てる。ジェライザ・ローズはショックで気を失う。

 

目を覚ますと、ちょうど剥製づくりは佳境。内臓などを空っぽにして体内に詰め物をする段階だった。

ビニールシートやエプロンや器具など、すべてがプロ仕様で手際の良い姉弟

 

「この人がやっと、私のところに帰ってきてくれた…」と恍惚とする魔女。

この魔女は若かりし頃、父親と恋人関係だったのだ。

父は魔女を置いて、田舎を出てジェライザ・ローズの母親と結ばれてしまった。魔女はずっと彼のことを想い続けていたのである。

 

そんな恋人を剥製にして永遠にそばに置いておける。魔女はご満悦である。

 

お腹に詰め物をする前に「好きなものを中に入れて良い」と言う魔女。

それならば!と、ジェライザ・ローズは首だけ人形たちをお父さんのお腹の中へ!「いや〜っ、やめて〜」という人形たちの声も虚しく、父親のお腹の暗い「穴」へと落ちて行く人形たち…。

 

無事、剥製は完成。

こんどは血などで汚れた部屋の掃除と片付け。

埃だらけで荒れ果てたままだった部屋に、はじめて「掃除」という概念が持ち込まれる!(もちろんジェライザ・ローズは「掃除」というものを教わったことがないので、荒れ放題のままなのだ。)

 

豪快に床をマップがけし、ついでにペンキで壁も暖炉も綺麗に塗り、家具も片付け、間違えるように美しくなったジェライザ・ローズの我が家!

 

大きなダイニングテーブルにご馳走を並べて、お疲れ様パーティーの開催だ。

飢餓状態のジェライザ・ローズはテーブルの上のエッグタルトに目が釘付け。今にもかぶりつこうとウズウズするが、魔女がしっかり食事の前のお祈りをするので「待て」をされる。

お祈りが終わると食事開始、ジェライザ・ローズはエッグタルトを口いっぱいに頬張る。久々の食事。束の間の至福の時間である。

 

 

食事が終わると、父親の剥製は寝室に寝かせて、姉弟は自分の家に帰って行く。

父親の剥製とともに横たわるジェライザ・ローズ。

夢の中で、父親のお腹の中にいる人形たちの声が聞こえる。

「ねえ、ウサギの穴に落ちた人形も生きてるよ!」

人形たちの声が聞こえる。

よかった!お父さんのお腹の中で、みんな一緒になれたんだ!

 

さて、ジェライザ・ローズの暮らしぶりを見た魔女が彼女のお世話を…するはずもなく、料理を提供したのはこれっきりで、またジェライザ・ローズは孤独な飢餓生活に元通りである。

 

 

7. 秘密兵器

船長との恋人ごっこにうつつを抜かすジェライザ・ローズ。家に遊びに来ては、子どものキスで「キスばか」と笑う。

気を良くした船長が、誰にも教えていない「秘密」を教えてくれると言う。

 

「秘密」があるのは、船長の自室。

魔女の家の中に足を踏み入れるのは、ジェライザ・ローズにとって初めてだ。

古い洋館はまさに「魔女の館」そのもの。間接照明がまた雰囲気を引き立てる。

 

船長の部屋は2階の奥。

部屋の中は宇宙や海兵グッズで彩られて、まさに男の子の夢の城だ。

 

ベッドの下の小箱に隠していたとっておきの秘密。

それは、サメを仕留める最終兵器…ダイナマイトだった。

 

おそらく草むらの果ての工事現場からくすねてきたのだろう。

これを使えば巨大なサメだって一発だ!と興奮する船長。

 

そのまま、部屋でしばしたわむれる2人。

船長がおばあちゃんからやられた「ぺろぺろ」を向かい合って見せる2人。(そのまま舌が触れたらどうしようかと観客は気が気じゃない。設定の中のジェライザ・ローズはただ遊んでるだけだけど、子役の子はどこまで分かってるのか…。)

 

 

8. ミイラ

船長の部屋を出ると、隣の部屋がジェライザ・ローズの興味を惹く。

そこはまるで魔女の部屋…。

 

部屋の真ん中の大きなベッドには、おばあさんが横たわっている…、

 

のではなく。

 

 

おばあさんのミイラが眠っている。

 

 

少女の妄想などではなく、まさにミイラそのもの。

ジェライザ・ローズにとっては「お父さんと同じように眠っているおばあさん」なので、怖くはない。

 

その周りには、大切に飾られた思い出の品々…。

きっと魔女の母親なのであろう、ミイラのおばあさんが生きていた頃の写真や、中には、魔女と父親が付き合っていた頃のラブラブツーショット写真まで…。

 

魔女はその剥製技術を使って愛する人たちの体を保存し、いつか魂が宿って復活するのを待ち侘びていたのだ。

 

写真に見入っていると、部屋に魔女が現れる。

 

「勝手に何をしているんだ!」と少女に掴みかかる魔女。

「助けて!」と必死に逃げるジェライザ・ローズ。

取っ組み合いのドタバタで、なんと、ジェライザ・ローズがおばあさんのミイラの頭を粉砕してしまう。

 

ショックで激昂する魔女。

必死に逃げるジェライザ・ローズ。

そこに船長が止めに入る。

 

…が、パニックになった船長がてんかんの発作を起こしてしまう。

 

床に倒れ、四肢をビクビクと震わせる船長。

魔女はすぐさま発作を鎮める薬を探し出す。

しかしジェライザ・ローズには、発作のことも薬のことも分からない。魔女の悪い魔法で船長が苦しんでいて、魔女は怪しげな薬で彼を殺そうとしている!

魔女に掴みかかり、必死に止めようとするジェライザ・ローズ。

 

しかし返り討ちにあい、ジェライザ・ローズは泣きながら魔女の館を逃げ出し、自宅へと敗走するのだった…。

 

 

9. サメ

疲れ切って、ベッドで眠るジェライザ・ローズ。

夜空に光る閃光と、巨大な音で目を覚ます。

 

なにかの爆発音らしい。

 

外へ出ると、草原の向こうで濛々となにかが燃えている。

 

 

導かれるように炎の方へと向かうジェライザ・ローズ。

 

そこには、バラバラになった列車と、事故で負傷した乗客たちの姿が。

 

 

「船長が最終兵器を使って、サメをやっつけたんだ!」

 

 

船長の姿を探すが、どこにも見当たらない。

彼を探して彷徨っていると、残骸に腰掛けていた乗客の女性がジェライザ・ローズに声をかける。

 

「あなたもこの電車に乗ってたの?家族は?」

誰もいない、と首を横に振るジェライザ・ローズ。

 

「そう、あなたもひとりぼっちなのね…私と同じように」

 

孤独な女性は、ハンドバッグの中からみかんを取り出し、「お食べなさい」と差し出してくれる。

優しい女性の腕に包まれて、ジェライザ・ローズはみずみずしいみかんを一粒ずつ口へと運ぶ。

 

遠くでは、心配した魔女が船長を探す声がする。見つからないように身を潜めるジェライザ・ローズ。

 

 

これまで母親の愛情を知らず、食事も与えられてこなかった10歳の少女は、孤独な女性の腕の中で初めて「母の愛」らしきものに触れたのだった。

 

ジェライザ・ローズの美しいつぶらな目に、夜空に舞う火の粉が映る。

まるで蛍の光のように、その灯りだけを残して映像は暗転する。

 

 

 

以上です。

 

 

圧倒的な映像美

改めて、映像の美しさは息を呑むほどであることは間違いない。

オレンジ色の草原と、濃い青色の空のコントラストはほんとうに美しい。

ラストの、少女の目に蛍が映って終わるシーンは「映画のラストシーン」ランキング上位に入りうる演出だと思う。(けど内容の減点が多すぎて絶対ランクインはできないと思う。)

 

荒廃した家にしろ、細かく作り込まれた舞台は「最悪な現実」と「少女の無垢な想像」の狭間でダークなファンタジー世界を見事に作り上げている。

 

 

子役ジョデル・フェルランドの演技は圧巻

もう一つ、この作品は主人公の女の子の演技力なくしては成立しなかっただろうと思う。

 

この子の演技がとにかく凄まじい。

 

指人形と話すシーンでは、指人形の声はアテレコなのだが、本当に話しているかのように生き生きと人形を動かす。それと同時に、顔面ではその人形と会話する10歳の少女の表情を作っている。

本当に、実在する「他者」を指で演じながら、自分自身もその演技を続行する…このマルチタスクに感服する。

 

ファンタジーの世界が実在するかのように没頭し、「冒険心旺盛なアリス」「一家を支える大人びたお姉さん」「創作に出てくる成熟した女性」といくつもの顔を使い分け、時には子どもらしい「キャハハ」という笑い声で無邪気な少女であることを思い出させる…これが10歳の女の子の演技力とは信じ難い。

 

 

主人公と、子役少女を取り巻く二重の地獄絵図

しかしジョデルの演技が凄ければ凄いほど、さらに見ているこちらの苦痛は増すのである。

作中のジェライザ・ローズが地獄を生きているのは繰り返すまでもないが、ジェライザ・ローズを演じるジョデルもまた10歳の子役としてこの作品に関わることが地獄なのではないか…ということだ。

 

これまで子役の演技というものをあまり考えてこなかったが、『子宮に沈める』のインタビューで「子役に演技してもらう難しさ」が語られており、なるほど子役というのは制作現場においてかなりデリケートな存在なのだなと思った。

 

2004年当時の映画業界における子役の扱いがどのようだったかは分からないが、しかし現に、ジョデルは作品の中で大人の男性とのキスシーンがあり、それを「遊びだと思い込んで、無邪気に笑う」という演技を求められている…。

「舌をペロペロするキス」について男性から教わり、それを真似して遊ぶシーンがある…。

 

本人はこの時、どこまでこの状況を分かっていたのだろうか。

後になってこのシーンの意味が分かった時、どう感じたのだろうか。

 

ジョデルの俳優としてのキャリアは2015年で止まっているようだが、成人した彼女の中でこの作品がトラウマになっていないかと、余計なお世話ながら気が気ではない。

彼女の周りにいた大人たちがジェライザ・ローズの両親と同じくらい非人道的な扱いを彼女にしていたのではないか、その一旦を画面を通して観客は目撃しているのではないかと思うと、もう全くこの作中のグロテスクさがファンタジーの創作物として流せなくなるのだ。

 

これが『誰も知らない』みたいな社会的メッセージを含んだ作品ならまだ分かるのだが、そんな意図もなく、ただこのダークファンタジーの世界を「作れるから作った」としか私には見えない。

 

その意味でこの映画は、あまり多くの人が観ない方が良いのではないか…とすら思ってしまう。(単純に作品として面白くないから観ても無駄だ、という意味も8割くらいは占めている。)

 

 

そんなわけで、観ないでください

以上、未来の「『ローズ・イン・タイドランド』ってどんな作品だっけ?」と惹かれてしまった自分に宛てたメッセージでした。

 

おそらく未来においてはさらに、子どもや障害者の性被害に対する意識は進むだろう。

そんな社会ではこの作品は本当に、本当に目も当てられなくなるはずだ。

…逆に「全然アリ、観れる観れる」と言うような社会にはならないことを祈って、2025年の私は『ローズ・イン・タイドランド』を封印しようと思う。