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【日記】Weezerの “In the Garage” が死角からブッ刺さってきた

歳をとると体力も衰え感性も磨耗して、どんどん刺激的な体験が億劫になってゆくものです。(人生まだ半分も生きていない時点でこんなことなのでこの先がたいそう危ぶまれる。)

この夏も災害級の猛暑で、ただでさえ暑がりの私は室内に籠城しようとばかりしている日々ですが、しかし夏には夏らしいイベントのひとつも入れなければ一年の活力が得られない。

 


…そんな時にWeezerの大阪公演があるというニュースを知り、学生時代には聴いたりコピーバンドもしたりした仲(?)なので「生で聴けるうちに聴いてみるか」とZepp Osaka Baysideに繰り出した2023年、夏。

 

 

 

まさか、初めて聴く"In the Garage" が弱った私の心にブッ刺さって来るとは。

 

Weezer - In The Garage (Live) - YouTube

 


正直に白状すると、私はWeezerのメンバー名すら知らない。

ボーカル・ギターは今調べたところリヴァース・クオモというお方らしいですが、ピンとも来ない。

ライブで初めて生で拝見すると、なんだか日本語ペラペラである。MCを全部日本語で話してくれる。それも「コンニチハ、オーサカ」とかじゃなく、”In The Garage”の曲の背景を「これは〜年の曲で、当時僕はガレージで音楽を作ってて…」みたいな長文を全て日本語で話してくれる。なんてこったい。

 


どうやらこの曲は、Weezerが始まった1992年、ガレージに籠って誰にも聴かれないようにたったひとりで黙々と曲作りをしていたリヴァース氏の思い出を綴った曲らしい。

防音のために壁にカーペットを貼り、ドアも塞ぎ、たったひとりのガレージは自分だけの安全地帯。誰も自分の音楽を聴いちゃいけない。誰も自分を邪魔する人はいない。

そこで音楽を奏でることは孤独な時間かもしれません。でも決して不幸な孤独ではない。ひとりっきりであることに安心できる、そんな安らかな孤独です。

 


大人になるということは、社会性を得るということです。

世の中に対する責任を果たし、より多くの知識や価値観を学び、誰かを傷つけないよう配慮し、人からの共感を得、支え支えられながら暮らしていくということ。

自分の部屋に籠っているわけにはいかない。

社会的に正しいことを言ったり考えたり作ったりしなければいけないし、作ったものは売って稼がなきゃならない。

さらにはSNSのイイネの数を一刻一秒と競わなければならない。

 


人と繋がることには至上の喜びがあります。

しかしその喜びにかまけて、「自分だけの、安全なガレージ」で黙々となにかを作っていた自分をいつから私は忘れていたのでしょう。

 


誰にも見られたくないらくがき。親に覗き込まれようものなら必死に隠していた駄文。

それは痛々しいし、恥ずかしいし、自己中心的で幼稚で愚かです。

 


いつから私は、痛々しい、恥ずかしい、自己中心的で幼稚で愚かな自分を殺すことに必死になっていたでしょう。

それは確かに「大人びること」や「成熟」とは真逆のものかもしれません。

でもそこには間違いなく、純真で、誰にも侵されてはならない「自分だけのもの」があったはずです。

相対評価が口を挟む余地がない、脆くも堅い「絶対」の世界があったはずです。

 


いつから「シェアすること」ばかりを気にして「自分だけのもの」を大切にすることを疎かにしていたでしょう。

 

 

 

私はもう一度、自分だけのガレージに帰ります。


もちろんガレージで作曲に勤しんだリヴァ様がのちに得た名声のように、いつか人に評価されて名声を得られればそれも楽しいかもしれません。そこから見える景色は絶景に違いありません。

でもこのガレージは、誰の評価も富も理解も共感にも侵させない、誰にも触られない私だけのものです。