ho-jun

芳醇/豊潤 ・ 小説と漫画創作 ・ 本と映画レビュー ・ 初心者社会学 ・ 日々考えること

小説

生け花

夢の中で 私は花を生ける はじけとびそうな花びら その生命の蒸発を支える 根元は黒々と腐っていく ぐずぐずの繊維を切り落とし もっと、もっとと養分を欲し なお花弁は高々と 他者を誘惑せんと 有らん限り 命を削る

ラブレター 後編

喉を泥が下っていくような気分だった。 そういえば、と思い出せば、最初の兆候は「模様替えをしよう」と彼女が言い出したことだろう。共同で遣っていた寝室を分けて、2LDKの2部屋を、自分の部屋と僕の部屋とに割り振ろう、と言い出したのだ。 その時は、僕…

A Love Letter - part 1

"Isn't this weird?" She wasn't even caring about her hands. It was so much covered with sand. "It must be some kind of time capsule, but these letters don't make sense." "Well, we don't know who and when these were buried. Maybe it makes s…

ラブレター 前編

「これって、絶対ヘンよ」 砂まみれにした手を振りかざして彼女は言った。 「これが土に埋めたタイムカプセルなら、こんな内容を書くはずないわ」 「でも、いつ誰が埋めたものかも僕らには分からないんだから。本人たちには何か理由があるのかも」 「そうか…

追っかけ

いまにして思えば、あまりにも若かった。 彼のことを好きすぎていたし、陶酔していたし、もはや信仰してもいた。 高校の日々はなにもかもが下らなく感じて、周りで起こっている友情や青春ごっこ、大人が植え付けようとする情熱や分別、誰もがこの年代にしか…

夏の魔物

いくら逃げても、夏は私を逃がさない。 去年とは違う街に住んで、違う家々に、隣人に、風に囲まれていても、夏は必ず私を見つけて、捕まえにくる。 それは真新しいマンションの壁に真っ白に反射する日の光。ビルの間を不意に吹き抜ける風。全速力の自転車で…

my

人の気持ちとはなんと浅はかで転がりやすいものだろう、と思う。 それは浮気がちな男たちを見ているからではなく、現れては去っていく一時の知り合いたちを思うからではなく、誰よりも自分に対して。 あんなにも恨んだ彼を、いともたやすく、そしてこんなに…

運転士

ドン、と車輛が揺れたかと思うと窓の外の景色が止まった。 周りを見ると、何が起こったのかと目を泳がせる人もいれば、すぐに納得してスマートフォンを触りだす人もいる。車内は奇妙な沈黙に包まれる。誰もが何かを発したいはずなのに誰も口を開かない。耳鳴…

写真

写真を飾るのが嫌いだった。 人の映った写真が、部屋の隅に所狭しと飾られたのなんかを見ると、恐ろしくて、吐き気をもよおしてしまう。 自分を見ないのに、ただこちらだけは一点に見る、目、目。目。きちんと揃えた手や、唇からのぞく歯。心をおおっぴらに…

the surroundings (or those things happend these days)

あのひとは、 自分のことばが、どれほどわたしを汚すか知らない。 沈黙が、どれほどわたしの過ちを煽るか知らない。 未来への、まるで眩しいものしかないまなざしが、 どれほどわたしの毛皮の生き物を、深くするか。 わたしはそれを、誰にも言うまい、誰にも…

祖母の手は、ツヤツヤとして柔らかかった。 私はベッドの横で、その手をずっとなでていた。 冷たくも、あつくもない。まるで人形のようだ、と思った。その手の中に、魂があるということが不思議だった。もうその瞳には、魂は宿っていないというのに。 焼かれ…

歳上の彼女

それでもぼくは、彼女に会いにその家に通ってしまうのだった。 古い木造で隙間風は吹くし、片付けができない彼女の部屋はいつも散らかって足の踏み場がない。 ぼくは彼女の部屋を訪れるたびに、まずは汚れた食器が山となっているキッチンを片付け、夕飯を作…

翁のかお

なんせ古い長屋なのだし、なにが出たっておかしくはないのだ。 冬になるとそれは現れた。布団に入って目を閉じると、何かの顔が、真っ暗な視界の中に現れる。誰のものだかわからない顔。それは、時にはしわくちゃなおじいさんの顔で、時には、つるつるの陶器…

sense

「おてんとさまはね、知られちゃいけないことがいっぱいあるんだよ」彼の襟が風にそよいだ。 僕はその様が、なんだか妙に懐かしくて、妙に悲しくなった。「知られちゃいけないことが、多すぎるんだ。この世界には」だから僕たちは、昼間、おとうさんが何をし…

頭上のハイヒール

真上の部屋には、きっと外国人の女性が住んでいる。築10年以上のアパートは、上の階の物音がよく響く。 ぼくの頭上では、固い靴が床を叩く音が、1日鳴っている。 おそらく、家の中でも、かかとの高い靴を脱ぐことができないのだ。もとが古い安アパートな…

サヨナラ博士

「なぜって私は、菜の花がすこぶる好きなのです。 あの、目の覚めるような鮮やかな黄色。 ひとつひとつの花は小さいけれど、それが集まってふんわりと丸く、背が高くでもどこか儚げな。 菜の花が咲くという、そのことに私は、何か特別な意味を感じずには居ら…

季節の割れ目

ふう、と息をついて私は扉を閉めた。 ほんの一時とはいえ、客をもてなすのはいささか気力がいる。それが、他ならぬ自分であるから余計に。 私はこの、空が濃く色づきだして、プラスチック製みたいな雲がもうもうと山の向こうから顔を出し、風がなんとなく浮…

some movement in the underground

また、まただ。 彼女の目は遠くを見、そこに映っているはずの僕の姿は消えている。 僕がそこに存在する意味は消え、だからこそ余計に、僕の輪郭がくっきりと空間に浮かび上がる。 空気は青色で、僕だけが場違いな蛍光色だ。 「どうだろう」 彼女の声は、彼女…

でんしんばしら 2

「ねえ、ねえ。18番地のでんしんばしらさん」 「ねえ、ねえ。聞こえているのでしょう。どうして応えて下さらないのです」 「どうかなすったのですか」 「あいすみません。 いえね、今しがた、中年の男女がいと仲睦まじく 手なぞ、繋いで歩いていたものです…

恋文

そのコーヒーは、蒲田青年にとっては決して安くなかった。 自分と年の変わらぬ学生たちは皆、ビルの一階にけばけばしい看板を構えた、安くて不味いコーヒー屋に入った。二階のこの喫茶店の入り口は、一階の原色に圧されていくらか地味に見えたが、挽いたばか…

爪切り男

店の同僚は、決まって彼を笑った。 彼の甘美なまでの素晴らしさを知っているのは、Rだけだった。 もう彼が店に顔を見せなくなって、半年近くが経つだろうか。週に一度必ずRに会いに来た彼だったので、もう永遠に顔を見ることはないのではないかと、Rはぼやけ…

書棚の少女―前―

ぼくにとって本は、無限の可能性を秘める魔法だった。 そこを開けば、自分の知らないあらゆる世界が、その住人達が、そこに吹く風や流れる音楽、ロマンやドラマが、全て立ち現われてくる。 そのページが茶色くくすんでいればいるほど、その物語は色鮮やかで…

名前集め

田中太郎少年は、判断を下しかねていた。 これは千載一遇のチャンスだ、と思った。いや、チャンスなどではない。必然的に、運命的に、なるべくしてなったことなのだ。よって少年がどのような道を選択しようと、必ず起こり、そして避けられないことなのだ。自…

山の弔い

「ご覧、今晩は、月がずいぶん赤いだろう。 おまけに、水で滲んだみたいに、ぼんやり陰っている。 こんな夜はね、山の中で、弔いがあるのさ。誰のって、精霊のだよ。 隙間なく木で覆われている様に見える、あの山にはぽっかり広場があって、そこで死んだ精霊…

でんしんばしら

115番地の電信柱が、14番地の電信柱に言いました。 「14番地さん。小鳥たちは、何を騒いでいるのかしら」 「さあ。何でしょう」 先刻から、灰色をした鳥が、あわてたように飛び回りながら ピイ、キイキイキイキイ、と鳴いたところへ べつの1羽が、幾筋か向…

ラン

玄関先での不測の出来事に対する第一の反応として、人はとりあえず階を間違えたのではないかと確認するものらしいと、そのとき私は学んだ。私は部屋番号を確認し、ネームプレートの名字を見て、やはり自分の玄関に違いなく、次に考えたのはこの花はどこから…

引退

石井は誰の説得にも応じなかった。周囲は必死で彼を引き留めようとしたが、どんな努力も虚しい徒労に終わった。 彼は唯一、最も親しいチームメイトにだけ理由を話した。 「ゴールが遠いんだ」 チームメイトは周囲にそれを話したが、それを聞いた全ての人間が…

春の蛙

からからからから からからから。 蛙がわたしを見て笑う。 おまえは春の魔法にかかったね。 そんで抜け出せないんだね。 あいつはとっくに目が覚めた。 おまえをおいて現のなかへ。 からからからから からからから。 ゆうべ見た夢、ばらいろの 明け方よりも…

水の神の死

その場所には未だに「湖」という地名が残っていたが、彼はそこに一滴の水も見たことはなかった。そして、ジジの「昔話」を語るのを聞くたびに、そんなことは信じられないという思いがするのだった。それは違う時代の違う世界の、おとぎ話でしかなかった。 「…

闇夜猫の眼

私が警察署の横を通り過ぎたところで、ニャア、と声を掛けられました。 見ると、灰色いふさふさとした毛並みのたわしのような猫が、両足をそろえてこちらを見ているのであります。 「サアサ、一寸寄ッテイラッシャイナ。私ノ御話ヲ聞イテオ行キ」 私は思わず…