いくら逃げても、夏は私を逃がさない。
去年とは違う街に住んで、違う家々に、隣人に、風に囲まれていても、夏は必ず私を見つけて、捕まえにくる。
それは真新しいマンションの壁に真っ白に反射する日の光。ビルの間を不意に吹き抜ける風。全速力の自転車で通りすぎる子どもたち。額を濡らす汗。
夏は私に問いかける。1秒前までの私を。これまで生きてきた、過去のすべての私を問う。
すべての過ちを、すべての罪を、忘れた憧れや、焦げつきそうな恋、覚えた快感——これまで手に入れて、手放してきたもの、こぼれ落としてきたもののすべてを。そして手に入れられなかった、手に入れたかったはずのものを、問う。
その意味を、価値を、重みを。問われても私は、何も答えられない。
ならば、と私は泣きたい気持ちになる。ならば最初から、なにもなければ良かったのだ。どうせ無意味なら、この生など、はじめから、はじまらなければよかったのだ。
けれど、その先にはまるで希望しかないかのような夏の光は、容赦なく時間を早回しにする。もう1年、無意味を塗り重ねるようにと私をその先へ運んでゆく。
せめて、私の手からこぼれてきたすべての無垢ないのちが、私のいない世界をパレードのごとく行進していてくれればと、ただそればかり願ってやまない。