年始に、いわゆるショッピングモールに行きますと、すごい人ですね。
みんな家でゆっくり過ごす正月というものに飽きているのか、服屋も無印もカフェも人、人、人。
そんな中でただ一箇所だけ、雑踏の中のオアシスのごとくひっそりとたたずんでいたお店が、そう、CDショップです。
1人、2人のお客さんがいるかいないかで、店員さんも呼び込みをするでもなく、そこだけ時間の進み方が違うみたいなのです。みんな紅白みたばっかりで音楽っ気に溢れてるはずなのに。
これこそがレコード産業のいま。むしろそのお店が今も残っていることを称えるべきなのかもしれません。
そういえば、大学の近くのツタヤもこないだ閉店してました。
それはともかく。
私もモールの初売りセールの空気にヤられており、特に欲しいものはないが買い物はしたい症候群になっていたので、その静かなCDショップに入ると、なんと。
DVD 10枚で3,000円
なんという価格破壊。
1本300円で映画が観れる時代が来てしまいました。
1本あたり500円とかのセールはタワレコとかでもよく見ますが、ここまでの安さはそうそう拝めるものではありません。
これだけエンタテイメントコンテンツが溢れて受容されているのに、その対価は下がる一方。
この国がどれだけエンタテイメントに厳しいかを、目の当たりにしてしまいました。
そして安いものが並んでいるならそれはもうそれに手が伸びてしまうのは避けられない衝動です。
数々の名作を生み出した映画業界のみなさんに、ごめん、と思いながら10枚を選び、正月の購買欲求を満たしたのでした。
その中に1枚、紛れ込んでいたのがこの、
ダイ・ハード
です。
言わずと知れた大ヒットアクション映画。
何を隠そう、私が生まれた年の映画です。
この年には他にも、となりのトトロ、火垂るの墓、釣りバカ日誌と、数々の名作が生まれた年でもあります。素晴らしい年です。パワースポットならぬパワーイヤーだったのかもしれませんが、私はまだそのパワーにあやかれてません。
さて、
私はあまりハリウッドアクションものは自分からは好んで観ないのですが、兄が他の男子にもれずそういうのが好物なので、兄の横でよく金曜ロードショーとかでターミネーター2とかダイハード2とか観ていました。なぜか私の記憶には2が根強い。
そんなことよりこのダイ・ハードの一作目。
話としては、アメリカ西海岸の正義感の塊みたいな警官(ブルース・ウィリス)が、クリスマスの日、西海岸の日系企業でバリキャリをしている妻に会いにいきます。
その企業のパーティーで妻と久々の再会をして、ぎこちなく互いの夫婦愛を確かめようとするのですが、双方のプライドが邪魔してまた喧嘩ムードに。
とかなんとかしてるうちに、ハイパー武装した強盗グループにビルが乗っ取られてしまいます。
社長もさっさと殺されてしまい、狡猾な武装グループに電話線も切断され(メールや携帯といった連絡手段がないのが時代性)、ビルは陸の孤島に。
唯一の戦力である主人公のブルース・ウィリスが肉体とアイデアを駆使して孤軍奮闘する話です。
その、ワンシチュエーションで多勢に無勢な密室の中ヒーローが孤軍奮闘するというのが、当時には新しいアクションの試みだったようです。
本場アメリカでは7月に公開だったようですが、なぜか舞台は真逆のクリスマス。
巨大なビルなのでいくら西海岸とはいえ、ビルの空調がんばったっておそらく極寒です。
なのにブルース・ウィリスは冒頭15分ぐらいを過ぎたらあとはずっとタンクトップに裸足。(タンクトップって嫌が応でもちょっとバカっぽい感じが醸し出されてしまう気がするのは、私だけでしょうか。)
確かに夏の映画で主人公がゴワゴワ着込んでても暑苦しいけど、ここまでの薄着はもはや、
俳優本人が「タンクトップじゃなきゃ俺は出ねぇ」とゴネたとしか思えません。
しかもそのタンクトップ、後半から明らかに色が変わります。
劇中の血のりとかいうレベルではない変色。
なぜスタッフは白いタンクトップを十分に確保できなかったのでしょう。謎です。
あと、強盗に押し入られ外部との連絡手段を断たれた冒頭、主人公は機転を利かせて火災報知機を作動させ周囲に異変を知らせようとするのですが、これも敵の妨害によってせっかく近くまで来た消防車も引き返してしまいます。
その様子を上階の窓から祈る気持ちで見ているブルース・ウィリス、大声の独り言が多すぎです。あとガラスバンバン叩きすぎです。
そんなにバタバタしたら、敵に見つかっちゃうよ!と気が気ではありません。
このシーンのみならず、彼の独り言の声の大きさには終始ドキドキさせられます。
あとこれ、アクション映画だと思って観たら、後半ほとんどブルース・ウィリス、座ってタバコ吸ってるだけです。あとその間、敵グループも聞いている無線でプライベートの話をしすぎです。
いやまぁ普通の警官が1人で何人も倒してるんで疲れるのもわかるんですが、ただ座ってるだけもどうなのかと。いや黙って座ってれば「潜伏」という戦法として理解できるのですが、その間も敵に大事な情報を知られかねない無駄話をぺらぺらし過ぎなのはどうなのかと。
主人公はまぁそんなちょっと不思議な子なんですが、しかし周りも周りなわけです。
強盗グループ、6億ドル盗むのに武器に気合入れすぎ。
リムジンのドライバー、あれだけの銃声と爆音に最後まで気づかなすぎ。
現地警察とFBI、ショボすぎ。
テレビ局、余計なことしすぎ。
あとビル爆破しすぎ。
もう誰を信じていいのかわからない、右を向いても左を向いてもバカしかいない。唯一、話を前に進めてくれそうな黒人警官には圧倒的に権力が足りない。もう観客がすがれる、知性と権力と冷静さを備え、いかなるピンチも素晴らしい機転で乗り切ってくれる唯一の登場人物はそう、
悪の強盗グループのリーダー、ハンス氏のみです。
彼の人望、判断力、決断力、行動力、統率力、戦略構築力。彼ほどの逸材はそうそういますまい。いっそ、彼についていきたい。それくらい彼の才覚は素晴らしく、周りのバカが浮き立つばかりです。
ちなみにこのハンス氏が唯一、無様にも感情をあらわにして必死の形相を見せるシーン、それが最後のフリーフォールシーンです。これ、俳優もガチでびっくりした表情だったらしいのですが、まったくこのスローモーションで描かれる驚きと絶望と焦りの表情、これだけでも十分に見ものです。
とまあ、いろいろ好き勝手に言いましたが、
概して昔の映画っていま見ると突っ込みどころ満載なんですが、この映画が当時、いかに世の中にとって新しくて興奮するものだったかは、その後の歴史が証明しているのではないでしょうか。
タイトルからして大味そうな作品ですが、けっこう細かく伏線が張られていたり(主人公が裸足という設定が活きる場面が遅すぎてちょっとびっくりしますが)、当時の社会意識(日系企業のグローバル進出、女性のワークスタイル、ヨーロッパの強盗組織とかもそうなんでしょうか)も垣間見えて、そういう目で見ても興味深い作品です。
同じ10枚3,000円セールで「ダイ・ハード2」も買ったので、それも近いうちに観ようと思います。
それはそうと、英語でDie Hardって屈強で信念があってかっこいい感じするのに、カタカナで「ダイ・ハード」って言うとなんかバカっぽいのは、いったいなんなんでしょうね。
※noteから転載