笑い売りは、なぜだかいつも泣いている。
他のみんなが笑えるように、
自分が代わりに泣いている。
ある日、まちの路地裏で
近所のいたずら少年が
そこらの野良犬怒らせて、
追いかけられて泣いていた。
そこへ笑い売りが来て、
犬におしりをガブリとやられ
それがあまりに滑稽だから、
いたずら少年 けたけたと
顔をゆがめて笑いだす。
ある日、道路のまんなかで
やっかみ男が財布をすられ
あたりを怒鳴り散らしてた。
そこへ笑い売りが来て、
肩をぶつけたものだから
やっかみ男にガツンとやられ
鼻がぐんにゃり曲がったもので、
やっかみ男 げらげらと
その顔を見て笑いだす。
ある日、八百屋の店先で
のろまなカラスがくるみを落として
主人に取り上げられていた。
そこへ笑い売りが来て、
りんごのかごをひっくり返し
主人に散々叱られる間に、
カラスはたらふくくるみを平らげ
あんまり満足したもので、
のろまなカラス からからと
お腹を抱えて笑いだす。
ある日、荒れ地のまんなかで
水に乾いたたんぽぽが
茶色くかすんでうなだれて
今にもたおれそうでいた。
そこへ笑い売りが来て、
わんわん泣いたものだから
涙のみずたまりができて
地面をたっぷり潤したので、
乾いたたんぽぽ はたはたと
頭をあげて笑いだす。
笑い売りは泣いている。
他のみんなが笑えるように、
自分が代わりに泣いている。