先日アップした記事が私史上最バズりを記録していまして、初めてのことに少々面食らっております。
まぁでもこの世の全ては一時的なものなので、あの記事もいずれ忘れられてこのブログもまた静かになるでしょうから、あまり動じずに淡々と漫画を描いたり私なりの考察をしたりして日々を過ごしていこうと思います。人類の歴史においてこのブログなど些細。
(ついでなので、感想マンガをもう1ページどうぞ)
さて、いただいたコメントを拝読していますと「アシタカのチャラ男的問題行動」にケリがつかない!という新たなテーマをいただいたので、それについても映画館で見て私の思ったことを今回書いてみようかと思います。
今回は、前回ほどエモくなくライトに行きます。
(私がアシタカを擁護する義理もなければ、アシタカ側も私なんぞに擁護されるのは願い下げだと思うのですが、多少「フェアじゃない」と思ったのと「いや、故郷で爆アゲされてたのに村人を守るために神殺しした途端、掌返された人やでかわいそうやん…!」と急にアシタカに心が傾いたので、ひとつの意見・考え方として書いておきます。)
(例によって、ジブリ研究家でもなければ、ジブリでは圧倒的にナウシカ派なので、知識や理解が及ばないところは多々あると思いますがすみません。)
映画本編でアシタカが「やっちまった」のは大きく3つかと思います。
私は今までこれらが引っかかって(&漫画に書いた通り、キャラが何を言ってるんだかよく分からなくて)、それ以外の『もののけ姫』に込められた作品の趣旨が全然入ってきてなかったのですが、「十数年ぶりに映画館で見て改めて感じたこと」をそれぞれ書いていきます。
1. ラストで「たたら場に残るんかーい」問題
これについては昨日の記事で書いたので割愛します。
ちなみに公式設定でアシタカはサンにばっちしプロポーズしていてあのラストは別居婚関係なのだそうですが(教えてくれた方々ありがとうございます)、たしかにアシタカにしてみたら、サン以上に自分の境遇をわかちあえる女性は他にいないので順当かと思います。
でも個人的には、ほんと個人的ですが、公式であれ「結婚した」とは思いたくないのが私の立場です…。
だって、森で暮らすサンとたたら場で暮らすアシタカの別居婚、想像すればするほどハードモードすぎてハッピーエンド感がないんですもの…!!
二人で逢瀬を楽しんでるぶんにはいいでしょうが、もし子どもができたら…? たたら場で引き取って育てるのはサンがかわいそうだし、その子はサンがワンオペで育てるのか…?(いや山犬2匹と一緒に2匹1マンオペレーションになるのか?) その子は山犬族の跡取りとなるのか…? でも完全にエンドゲーム状態の山犬族で、サンとアシタカがいなくなったらその子はどう生きていくのか…? その子はどのようなアイデンティティ形成をするのか…?
アシタカはアシタカで、たたら場では尊敬されているでしょうけど、「山犬の女と通い婚しているちょっと変わった人」という目で見られ続けるのはそれなりのしんどさもあるのでは…? 少しでも結婚生活の愚痴を漏らそうものなら「やっぱりたたら場の女と結婚した方がいいよ」的な村社会の圧力に争い続けるのか…? 通い婚で浮気せずにいられるのか…?(サンに独占欲があるのかは疑問ですが、今後芽生えてくる可能性もあるし…。)最初のうちは少し変わったことしてても「山を救った英雄ボーナス」が働くでしょうが、時が進んで世代交代してもそのように見てもらえるか…?
今後も戦が絶えないであろうこの社会で、また立場・所属の違いが二人を断絶しないか…?
とか、いろいろ考えると「くっそハードモードやん…!!」ってなって絶望するので、私は2人は好いた惚れたを超越した魂のパートナーなので、恋愛や婚姻はそれぞれ文句言いっこなし状態の方にベットします。
…脱線してしまったので話を戻します。
2. 「生きろ。そなたは美しい」発言
名言としてよく取り上げられるセリフですが、見方を変えればチャラ男感満載、フェミニズム的には「ハァ?」な一言です。
このセリフ、いつ、なぜ言ったのかもあやふやだったのですが、改めて見てみると切り出されたこの文字列とはガラッと印象が違いました。
まずはこのシーンを振り返ります。
エボシ御前と決闘しにきたサンをアシタカが助けたのですが、アシタカはその時に脇腹に砲弾をくらい瀕死状態。
ヤックルに運ばれてきた岩場で、サンがアシタカに決闘の邪魔をした理由を迫るシーンです。
※調べたので合っているはずですが、もし間違っていたらごめんなさい。
サン「なぜ私の邪魔をした!死ぬ前に答えろ!」
息も絶え絶えなアシタカ「そなたを死なせたくなかった…」
サン「死など怖いもんか!人間を追い払うためなら命などいらぬ!」
意外とまだ喋れるアシタカ「分かっている…最初に会った時から」
サン「余計な邪魔をして無駄死にするのはお前の方だ!」(アシタカの剣を抜いて、喉に突きつける)「その喉切り裂いて、二度と無駄口叩けぬようにしてやる!」
アシタカ「生きろ」
サン「まだ言うか!人間の指図は受けぬ!」
アシタカ「…そなたは美しい」
サン「!?」(驚いて後退りする)
改めて見ると「生きろ」と「そなたは美しい」は、一続きのセリフではなく、サンとの会話の中の2つの別個の言葉だったのですよね。
このコピペが一人歩きしていて、そのことなんてすっかり忘れていました。
(一続きのセリフの間に、サンがフライングして「まだ言うか」と口を挟んでしまっただけの可能性もありますが、アシタカが目を開けているので私はちゃんとひと呼吸あったと解釈しています。)
さて、その前提で改めて「生きろ」「そなたは美しい」の意味を考えます。
そもそもなぜ、アシタカはサンを救おうと思ったのか。
山犬に育てられ、人間に恨みを持っているサン。どうみてもなにか事情がある少女です。
泥試合と分かっているたたら場での決闘に挑んだサンは、アシタカの目にどう写っていたのでしょうか。
自分の呪いを解くためのヒントとなるキーパーソン?
人間と自然との闘争の狭間にいる、哀れな少女?
…それらもある気がします。
でもそれ以上に、「人間社会から弾き出され、生き方ではなく死に方を模索している」サンを、同じく「生きる理由よりも死ぬ理由の方が山ほどある」アシタカは見ていられなかったのだと思うのです。
ただでさえ、アシタカは誰であっても人が死ぬのを見捨てられない優しい性格の持ち主です。
タタリ神に襲われそうなカヤたちを自分が呪われてでも助けるように、崖から落ちた男たちを体力の限界を超えても運んであげるように、「もののけ姫」と呼ばれる少女もまた、彼は「自分の命を捨ててでも救ってあげたい」対象だったのだろうと思います。加えて彼女は、明らかに他に救ってくれそうな人間がいないのですから。
「死なせたくなかった」のは、呪いの解決や自然との共生だけが理由ではなく、前の記事でも書いたように「お互いにしか分からない苦しみがある相手を、この世から失ってしまいたくなかった」からでしょう。
故郷の村人から一度殺されているアシタカは、サンの命を救えなかった時に、自分が“本当に”死んでしまうのだろうと感じていたのです。
さて、例のセリフのシーンに戻ります。
銃弾で深い傷を負って今にも死にそうなアシタカ。彼はもう、このまま助からないことも覚悟しているでしょう。村を出た時点で…いやタタリ神を殺した時点で死を覚悟しているアシタカは、無闇に人生を引き延ばしたいという欲はなく、いつだって死ぬことを受け入れられます。
死に刻々と近づいている、つらい身体を押してでもサンに伝えたかった言葉。
それは褒め言葉でも、口説き文句でもない。
「遺言」だったと、私は思います。
自分が死んでも、どうにかこの少女には生きてほしい。でないと自分の魂が浮かばれない。故郷の人から見捨てられて孤独に死ぬのは自分だけでいい。彼女はそんな目に遭わせないでほしい。
尽きかける命で、最後の力を振り絞って、アシタカはどうにかして命を捨てようとしているサンに「生き続ける」ことを考えさせたかった。そのために、あの手この手で説得していたのが、このか細い声での会話でした。
「そなたを死なせたくなかった」ではだめ。
「生きろ」でも響かない。
生き死にのメッセージは、とっくに死を覚悟して死に飛びこもうとしているサンの心には届きません。
彼女の気持ちを変える前に、自分が喉を刺されて死ぬかもしれない。
そこで出たのが、
「そなたは美しい」
……これは、見た目を褒めたのではありません。
「美人だから生きる価値がある」なんて、そんな生易しいことでは彼女を救うことはできません。
「美しい」と人間であるアシタカがサンに言うことは、つまり一人の「人間」としての尊厳を認められた、ということの証なのです。
「私はあなたを、美しい女性だと思う」。今まで山犬として生きてきたサンにとって、人として扱われることは初めてだったでしょう。
たたら場でエボシ御前が、差別を受けてきた女性や病人たちを人として見ていた慈愛の目。それを目の当たりにしたアシタカもまた、サンを人として扱うことで、彼女をこの世に留めようとしたのです。
それは、人間社会の中にもサンは位置しうる可能性を…村で暮らすことはできなくても、「人間」という社会のどこかでサンが生きうる可能性を、アシタカは突きつけたのです。
猿のような精霊・ショウジョウが現れて話は中断しますが、ここからサンの中にあった山犬として「死」を恐れないアイデンティティのほかに、アシタカと共に生きる「生」の道が芽吹き始めたのでしょう。
3. カヤのプレゼント横流し問題
さて、一番の問題はこれです。
私はこのシーン、すっかり忘れていたので、映画館で見て「えーーーっあげちゃうのーーーっ」と新鮮な気持ちで盛大にツッコミました。
ツッコミましたが、まぁ、いろいろ考えを巡らせて「そうするしかないか」と納得はできました。
そもそも「カヤのプレゼント」とは。
映画の冒頭、エミシの村を旅立つ際に、こっそり見送りに来たカヤがアシタカに渡した短剣のネックレスです。
カヤは「これを私と思って持っていてください」「兄さま(本当の兄弟ではないそうです)を守るようにおまじないをかけてあります」と言って(セリフはあやふや)短剣を渡し、アシタカは「カヤをずっと想おう」と受け取ります。
この「ずっと想おう」という言葉は愛の約束ではなく別れの挨拶であり、カヤとアシタカの仲はタタリ神討伐の時点で切れたも同然だった、というのは先日の記事で書きました。
そのおまじないが効いたのか、幾度ものピンチをアシタカは切り抜けることができました。瀕死の傷を負っても、サンがシシ神様のところへ運んでくれて、シシ神様の判断によりアシタカは生き続けることができました。
山犬たちの巣でしっかり休んで身体を癒し、再出発したアシタカが、見送りの山犬に「これをサンに届けてくれ」と投げて渡すのがカヤのネックレスです。
山犬はサンにこれを送り届け、サンは猪たちとの決戦に向けて、アシタカの想いを大切に受け取って首にネックレスを撒きます。
さて、今の感覚からしたら「人からもらったものは別の人に横流ししてはいけない」ものです。ましてや元恋人が「これを私だと思って」と持たせてくれたプレゼント。元カノからもらったものを今カノにあげた構図になっているところがまたヒヤッとします。
しかし、世は厳しい戦の時代、文明の届かない大自然。
人のものであっても必要なものは使わないと詰んでしまう、厳しい世界です。
山犬と別れる際に、アシタカは何かサンにことづけなければと思いました。
…洋服、武器、漆の碗…。ほとんど身一つで村を出てきたアシタカはろくに所持品がなく、どれもサンにあげたって邪魔になったり自分が戦で困ったり、その想いを託せるようなものではありません。
エボシ御前もろとも死のうとしていた彼女を生きさせる道がないか、ずっと考え続けているアシタカ。
ともすれば、もう二度と会えないかもしれない。ならば「死なせたくない」「生きてほしい」というメッセージを、これから何度でも思い起こさせるために、自分の想いを物に託さなければ。
…あのネックレスは、アシタカにとって「故郷を追われた自分が、辛うじて『人間社会と繋がっていてもいい』と認めてくれる人間の想い」の象徴です。
村の総意で「死」を突きつけられた自分が、それでも「生きていてもいいはずだ」と思える心の支えです。
アシタカは、自分が死ぬことは恐れません。
でも他の人たちには、とりわけサンには、この「生きていてもいい」「人と繋がっていてもいい」と思い続けてほしかった。
「私はあなたに、生きることを諦めてほしくない」
「たとえ離れていても、もう一生会えなくても、何度でも私のことを思い出して、生き続けることを疑わないでほしい」
カヤから受け取ったその想いを託して、今、このメッセージが…「自分は生きていていいんだ」という証が、誰より一番必要なサンにアシタカは届けたのです。
人からもらった、自分を今まで生かしてくれた「人の想い」だからこそ、守りのまじないがかかっているからこそ、今度は自分が誰かに「生きる意味」を繋ぐ…ペイフォワードすることに意味があったのです。
……。
……そうですよね。
これはアシタカサイドの言い分であって、「プレゼントを託したカヤの気持ちは」とか、「元カノのプレゼントを今カノに渡す了見とは」とか、そういうことへの直接の回答にはなってないですよね。
「もうカヤとは切れたんだし、どうせ二度と会えないから」といっても、カヤは健気にアシタカを想い続けてるかもしれないですもんね…。
……。
………。
ごめんアシタカ、擁護しきれんかったわ。
…最後になりましたが、コメントやスターをいただいた皆さま、シェアしていただいた皆さま、ありがとうございます。
先日の記事で誤記の指摘があった点は、しれっと修正するのもいやらしいので私は恥を晒したまま、皆様のコメントをもってほかの読者の方への注釈となればと思います。
あとエボシ御前についてもコメントをいただいたことでいろいろ考えて書きたくなったのですが、ここべつにジブリブログじゃないしなー…!という思いもあるので、気が向いたら書きます。
そんなことよりはよ漫画を描けと自分に言いたいですし。
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— トナカイフサコ / 旅するトナカイ (@fusakonomanga) 2020年7月19日
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